2025年大阪万博殺人事件

稲富良次

第1話 承前あるいは事前設定資料

この国で政治が正常にドラステックに機能したことは一度もない。


2023年10月現在で大阪万博の状況は最悪だった。

外国からのパピリオンの誘致の成功は皆無だった。

新型コロナの蔓延とロシアのウクライナ侵攻で原材料の価格は高騰し

工事の請負価格も上昇した。

そして現在工事中のパピリオンの数は少なく、その現状は木材の骨組みが雨ざらし

そのままで、嬉々として工事は進んでいない。

これはとてもではないが2025年の4月13日の開幕に間に合いそうもない。


この現状に政治家は無策だった。

発起人の大阪維新は国に財政援助を求めた。

政府は公金の注入もやむなしの姿勢だが、その予算規模の膨大に及び腰だった。

そしておきまりの責任の押し付け合いが始まった。

追加の財源はどこが負担するのか。

国か、地方自治体か、企業か?

だれもこんな地盤沈下する泥船に乗りたくはない。

しかし土建屋からの中抜きマージンを貰って、それはもう使い果たしている。

併設する公営カジノの甘い甘い利権は絶対に手放したくはない。

誰もが口にしたい言葉が出ない。

「もうやめようや…」


そして令和のラスプーチン

吾輩が登場したのでございます。

この世は嘘と欺瞞

本音と建て前は裏返し

要は「箱物」だから工事が滞るのでござんすね。

でしたら土建屋さんから金をもらうスキームは諦めましょ

もう思い切って地面の公園と

どうしてもシンボルで作りたい円環の木製の枠組みだけにしましょ

ただ通産省が推し進める「空飛ぶ車」だけは阻止限界点を越えましたので

発着ポートだけは作ってもよござんすよ。

でもそれじゃスカスカで客呼べないじゃん

一万円以上するパー券(事前入場チケット)配れないじゃん。

そうざんすね…よござんす

吾輩も鬼じゃござんせん

超大目玉、これは正真正銘世界初の新技術を展示するハピリオンだけ

作ることをお許しいたしやす。

まぁその新技術をあっしが提供するんでして

へっへっへ

そしてこの希代の詐欺師「ミハイル・ラスプーチン」の大嘘に

日本の政財界は飛びついた。

その出自も都合がよかった。

彼の会社「セルプロジェクト・проект ячейки」が

ウクライナの登記であることも追い風になった。

日本が堂々とウクライナに資金提供できる口実ができたのだ。

社名のロシア語が発音しにくく「ヨシユキ」と呼称された。


彼が作った新発明「セル」は隣接するコンテナ埠頭から続々と

荷揚げされた。

セルは3メートル×3メートルの立方体で異様に軽かった。

しかも硬度はそれなりにあった。

つまり水に浮く硬化発砲スチロールなのである。

これがどうゆうことなのか

博覧会場の内海に大型建造物が作れるということなのだ。


彼が「空飛ぶ車」の実用化にこだわったのは意味があった。

セルの上部の四箇所に特殊な自動操縦ローターを取り付ければ

セルは空に浮かぶ。

そのローターのブレードに立体投影の電灯を付ければ

電灯が回転して立体映像が浮かび上がり、空を駆け巡る。

セルの下部壁面に小型スクリューを付ければ

セルを自動操縦で海面を曳航することができる。


この持て余し気味だった博覧会の内海の使い道をいっきに

特設の展示広場に昇華させてしまったのだ。


このアイデアに狂喜乱舞するクリエーターがいても不思議ではない。

元々テーマ事業プロデューサーであった「川森政治」氏が飛びついた。

川森画伯は自身のプロジェクト「いのちをめぐる冒険」にこの素材を

転用する方策を思いついたのである。

もともとのコンセプトでは真水から海水に変え、鋼線のかわりに炭素繊維

ケーブルでコンクリートパネルを作っていた。

それをセルという名前のモジュールにして構造物を作り、その集合体で

パピリオンとしたのだ。

これを…外壁として…

3メートル×3メートルのウクライナ製のセルの本体の中に

2.4メートル×2.4メートルの何もない空間を作る。

これは平均的日本人の身長を考え、閉所恐怖症にならないギリギリの空間

と仮定する。

そして前後左右に出入口を設ければ

キューブ状の立体迷宮が出来上がる。


ただしそれをすぐに入場者に体験させられるかといえば

問題が山積みだ。

迷宮と言えば行き止まり、つまりは戻る人と行く人で

たちまち迷路は渋滞してしまう。

かといって入場者を絞れば回転率が著しく低下する。

つまりは人間専用ではないという事だ。

かといってドローンを使ってカメラで操縦しても衝突の危険性は同じだろう。


ここで何度も繰り返されている「欺瞞の法則」を適用しよう。


最初に訪れる大広間では多数のドローンが用意されている。

その数と同じ操縦ボックスが用意されている。家族連れであれば4人掛けの席に

操縦桿が一つでも子供が操作するので納得だろう。

最初の入り口は実際にドローンを操作させる。

だが間仕切り等で見えなくなればコンピューターの立体映像で誤魔化せるはずだ。

これで衝突と混雑の問題は解決する。

催し物の時間はギリギリのタイムアタック時間を設定しておけば充分だろう。


まあこれを実際に稼働させてみろとは言わない。

これはUSJの領分で大阪万博がやるべきことではない。

だが「空飛ぶ車」の遠隔操作の操縦席として複数のコクピット席を予め用意しておいても

無駄ではないだろう。


リアルで建築できるテーマ型パピリオンはこれだけにしておこう。

後は3DCGで構築されたバーチャル展示だけでいいはずだ。

それはNTTが「空飛ぶ夢洲」という企画で既に走っている。

いい加減フィジカルな現実の空間に

共同館

テーマ事業パビリオン

参加国パビリオン

などの「箱物」を金と時間を使って作る愚を施政者は解ってもらいたいものである。


まぁ客寄せのために実物型のガンダム型のバルキリー「VF-RX78」

くらいは作ってもいいのかもしれない。

従来の1/1ガンダムとの差別化のためにファイター形態とガウォーク形態に変形

させるくらいはしてほしいが…

二本の支援アームの吊り下げで可能だとは思うが。

あとは「円環の木製の枠組み」をどうするか?

あくまで今大会のシンボライズで大会終了後唯一残す構築物の候補ではあるのだが

千里万博の「太陽の塔」ほどのインパクトは残念ながらない。

これに意味を持たせるには?

会場内のバーチャルリアリティ空間構築の通信元、電波発信塔として利用する。

その円の中にだけ専用デバイスが機能する。

そして外部の妨害電波を遮断するジャミング装置も付与する。

そうでなければわざわざ会場に行かなくても自宅ですませられてしまう。

専用デバイスさえあれば、会場のだだっ広い公園で寝そべって体験していいわけだ。


要はトイレと売店とレストランさえあれば、あとで作る公営カジノの施設として

流用可能だ。如何かな。


「空飛ぶ車」は今の日本において起死回生の一手となりえる。

ロシアとウクライナの戦争において無人のドローンがいかに有効かは周知の事実だ。

この航空規制緩和を関西空港と神戸空港の管制空域にかからないように設定できれば

東京と名古屋に先駆けての関西の独自性の利潤は計り知れない。


その観点から「空飛ぶ車」のコンペテーションの会場はポートアイランドだけではなく

六甲アイランドと六甲山頂と淡路島のニジゲンノモリの三カ所が追加で設定された。

ニジゲンノモリが選ばれたのは竹中平蔵利権のお膝元であるので揺るがない。


これがこの物語の前提条件

設定資料である。

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