勇者反乱

せいじぃ

プロローグ 勇者反乱の報

王都アスガルディアは、春の陽光に包まれていた。

石畳の広場には市場が立ち、商人たちの威勢のいい声と、子どもたちの笑い声が響き渡る。

人々の表情はどこか穏やかで、長き戦乱の終結し、ようやく訪れた平和の空気が街を満たしていた。


そんなある朝、王都の中心を貫く大通りを、血相を変えた伝令が馬を駆って走り抜けた。

伝令の衣は泥にまみれ、顔は汗と埃で汚れている。彼は王宮の門前で馬を降り、衛兵に何事かを叫ぶと、すぐさま中へと案内された。


「勇者軍、反旗を翻す――!」


この一報は、瞬く間に王都中を駆け巡った。市場の喧騒は止み、誰もが耳を疑った。

あの「勇者」が、王国に刃を向けたというのだ。

勇者――それは、魔王を討ち、世界を救った英雄。民衆の誰もがその名を知り、彼の武勇と慈愛の物語を語り継いできた。


「まさか、勇者様が……?」「何かの間違いじゃないのか?」


人々はざわめき、噂話が広がる。

年老いた商人は、勇者が魔王を討った日のことを思い出し、涙を浮かべた。

若い兵士たちは、戦場で聞いた勇者の伝説を思い返し、信じられないという顔をしていた。


王宮では、王と貴族たちが緊急の評議を開いていた。豪奢な会議室には重苦しい空気が漂い、王の顔には深い皺が刻まれている。側近の宰相が伝令の報告を読み上げた。


「勇者軍、北方の要塞を制圧。王国軍の一部も寝返り、勇者軍に合流した模様。現在、王都への進軍を開始――」


「なぜだ……なぜ勇者が反乱など……」貴族の一人が声を荒げた。

「勇者は野心を抱いたのだ! 王国の平和を脅かす裏切り者に成り果てたのだ!」


その夜、王都の広場には、民衆が集まり始めていた。誰もが不安げな表情で、互いにささやき合う。

「勇者様は本当に裏切ったのか?」「王家が何か隠しているのではないか?」――疑念と恐れが、静かに王都を包み込んでいく。


一方、王宮の奥深く、王家と貴族たちは密やかに会議を続けていた。ある貴族が低い声で囁く。

「民衆の不安が広がれば、王家の権威も危うくなる。勇者を悪しき存在として仕立て上げねば……」


夜が更けるにつれ、王都の空気は一層重くなっていった。英雄の裏切りという信じがたい報せは、王国の根幹を揺るがせていた。


翌朝、王都の壁には新たな布告が貼り出された。


『勇者、王国に反旗を翻す。王家と民衆の平和を守るため、勇者討伐軍を編成する。』


布告を見上げる人々の顔には、恐れと悲しみ、そしてどこか疑念の色が浮かんでいた。
かつて希望の象徴だった勇者。その名が、今や王国を揺るがす嵐の中心となっていた。


――こうして、「勇者反乱の報」は、王都アスガルディアに新たな混乱と謎をもたらしたのだった。

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