ダラダラポタポタ、徒然に。
霜月 冬至
春雨
写真家と雨の神様
写真って、すごいと思う。刻一刻と変遷する森羅万象を、
いつまでも変わらない、不変の世界へと閉じ込められる。
変化を、不変の一瞬として保存する、残酷な行為。
...まぁ、そんな小難しい事考え始めたのはつい最近なんだけどね。
むかーしむかし。具体的に言うと6、7年前に。
家族旅行に来ていた女の子がおりまして、
「おしゃしんわたしがとるー!」
と、言い出しました。そうやって意気込んだ結果、盛大にすっ転んでしまったけれど
その泣き虫にしては珍しく根性を発揮してパシャリ、とシャッターを切れましたー。
...というのが私の写真好きの発端、らしい。
母がそんな事を言っていた。私は忘れたけれど。
「行ってきまーす。」
「行ってらっしゃい。ちゃんと濡れないようにしなさいねー!」
「気をつけろよー。」
...つまらない。そう思う私は、世界を舐め腐っている。
私の人生は、何も無い。山も、谷も。
世界中で「この世は地獄」だとか形容せざるを得ない、
艱難辛苦を受け続ける人達からすれば、何も無い人生はこの上なく
切望するモノなんだろう。
その癖私はそれを、艱難辛苦を求めている節がある。
それに耐える根性が無い事なんて
自覚が芽生える程度には、わかっている筈なんだけどね。
そんな事を考えながら、春風とにわか雨に髪を靡かせ傘を差し、歩く。
春先だというのに晴れやかな気分を一切感じさせない、じっとりとした陽気。
服も、髪も、ペタペタと肌に張り付き始める。溜まったもんじゃない。
...蒸れないような服を着たつもりだったんだけど、圧倒的な湿度の前では
大した差はなかった。
「ふぅ...。」
こんな湿気の中で、誰も気づく訳ないしいいや。と言い訳しながら
パタパタ、服で風を起こしてふと空を見上げた。
嵐の前の静けさ、というか。これから草花が育ち、咲き誇る為の
準備期間なんだろうと思うと、趣深さ的な何かを感じる。
...今年も存分に咲き誇って我がカメラの錆となっていただこう。
パシャ
雨天の中、散歩に出た目的はコレだ。私の平坦極まりない人生は、
歩くには少々味気なさすぎる。かといって、走って終端まで辿り着くほど
強い自殺願望を抱えてる訳でもない。
なので、
パシャ
折角いっぱい写真撮ってるのだから、その平坦な道の背景にでもしてみよう。
暇つぶしとしては丁度良さそうだし...というのが、今後付けした理由。
...ちなみにこう思い始めてから露骨に記憶力が下がった。
高齢の人とか、目的も刺激もなく生きてるとボケるらしいし、
残念ながら私もそんな感じかもしれない。
将来、日記とかとしての一面も兼ね始めるかも。やだなぁ...。
「あっクソ、やっぱり曇っちゃったか。」
想定内っちゃ想定内だが、レンズが曇った。レンズ拭きの布はあるけど、
流石に立ったまま拭くのは怖い。手が滑りそう...。
「そういえば...。」
近くの神社にベンチあったなぁと、ボケた脳みそから記憶を掘り出した。
足元注意!と言い聞かせながら石畳を進む。
...真ん中って歩かない方が良いらしいね。徐行運転。
「よっこいせ。」
...こんなものが口を突いて出る辺り、やっぱり私って中身よっぼよぼのお婆さんなのかもしれない。「これから高校生なのに大丈夫かな」と
他人事のようなボヤきが漏れ出る。
キュッキュッキュ。
よーしok。ただやっぱり湿気酷いなぁ...。というかなんか大降りになりそう...。
早いけど帰ろっかな。
ゲコゲコ。ざーざー。
...カエルの学校は日曜日、雨天でも休まず授業中らしい。
ゲコゲコゲコゲコ。ざーざーざー。
...。
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコ。ざーーーーー。
「...急にうるっさいなもう!」
『じゃよなぁお客人?』
蛙の合唱、バケツひっくり返ったような
大雨の音の間を縫って、鼓膜を誰かの声が打つ。
「え?」
『やはり五月蝿いよなぁコレ。
雨雨、ヤメヤメ♪...これでどうかの?』
急な可愛い一言で静寂が訪れる。
蛙も雨もしーんと、鎮まった。息苦しさが消え、
雨上がり特有の、解放感に満ちた爽快な空気が気道へ入り込む。
...動揺してて、気にする余裕もあんまり無いけど。
「...アンタ、誰?」
クルッと振り向くと、
私と見た目はそう年齢の変わらなさそうな女の人が立っていた。
品格のある立ち振る舞いに着物に、淡い水色の髪。
声も若々しく、普通に私と同年代のいいトコのお嬢様に思える...が。
妙に間延びしているというか、テキトーというか...。ジジb...ご年配の人特有の
話し方でどこかチグハグ、実際の所は何歳か判然としない。
『...ま、そりゃそうか。運の無い子じゃなーお前。
まぁ安心せぇ、直ぐうちゃってやるわ。』
「...?あぁ放り出すって事ね。家のばあちゃんみたいな訛りを...
というかそうじゃ無くて、だからアンタ誰?」
『うーむ...そうじゃな。神様。雨を司る神様じゃよ。
正確に言うなら、ちと異なるが...細けぇ違いじゃ。気にせんでええ。』
「へぇー...。」
『驚かんのか。珍しいのぉ。』
「いや、驚いたよそりゃあ。でも実在してる、ってなったら...。」
『なったら?』
「...質問したい事があってさ。不老不死なの?」
『ああ。...それだけかの?』
「もいっこ質問。楽しい?」
『...。』
...アレ。もしかして怒らせちゃったかな?
何も言わずに顔を俯かせている彼女をじっと見つめる。じー。
何秒くらい?3秒くらい。唐突に顔を上げて、悩みなんてないと言いたげな、
精一杯の明るさを込めたであろう声で、私の無遠慮な質問に答えた。
『...つまらんよ。ほーんとにつまらん。だってワシ知ってる奴なんぞ、
だーれも居らんのじゃよ?そいで、散歩するにもワシは神社から
気軽に出歩けるようなモンでもないしの。』
「...そっか。」
『成りたいんか?』
「全く。それこそ死んでもごめんだね。友達がさ、時間が足りないから
不老不死になりたい!ってほざいてて。実際どうかなと思って。」
『そうか...そんならええか。
その友達が目眩まんよう、よー言っとけよ?やる事のーなったら、
永生きなんざ後悔しか残さんからな。
...ほれ、そろそろ帰りたいじゃろ?戻すから立て。』
「...。」
『どうした?
...限りがある人生じゃろ、油なんぞ売ってねぇで
全力で楽しんでこいな。』
...なんでだろ、私とおんなじようなモノの見方だなって、思ったからかな。
それとも紛れもなく、私の求めた非日常そのものだったからかな。
「...ねぇ、あのさ。」
『なーんじゃこの期に及んで、そろそろ力づくで追い出すぞ。おーい?』
珍しく、他人の人生にちょっかい掛けたくなってしまった。
「時々、ここに来ていい?」
『...はぁ?茶も菓子も出んぞ?』
「...ダメ?」
『ハッ、泣き落としが女に通用すると思うなよ小娘が。』
「えー...そういうそっちは何歳なの?」
『女に年齢聞くんか?2〜300くらい...の筈じゃ。』
「あぁ答えてくれんのね...。はぁーい、ささっと帰りまーす...。」
『いやいやワシが許可せんと帰れんわ、落ち着け今帰すから。
...あとさっきの話、お前がええならええぞ別に。他に用事も全く無いしな。
ただお前に出せる茶も菓子も、面白いモンもなんも無いがな。』
「えっほんとに!?やった!」(ガッツポーズ)
『...んな嬉しい事かぁ?友達少ねぇようなタチでもねぇじゃろお前。』
「...なんでしょうねぇ。なーんか価値観っていうかなんて言うか...そういうのが
同年代の友だちとズレててねー...。さっき話に出た子とかも、仲良い...筈なんだけど
例のズレがあるから、合わせんのがキツいのなんの。だからズレが無さそうで、
そんでもって面白そうなひt...神様が居たもんで。まぁしょうもない内容の雑談
とか、愚痴聞いて貰ったりとか...あとそうだ!私色んなトコの写真撮ってるから
それを見せびらかすとかしよっかなって。」
『3桁年齢の婆と馬が合うとか...苦労してそうじゃなぁはっはっは!』
「...うっさいわ。ほら帰してくれるんでしょ?早くして。」
『はいはい。ほれそこに立って二礼、二拍手、一拝。
...あぁそういや聞いとらんかったな、お前名前は?』
「
古臭い名前でしょ?さち、って呼んで!これからよろしくね、
梅ちゃん!」
『それワシの呼び名か!?呼びやすいってんなら別にええけど...。
...暇な時にでもまた来いな。楽しみにしとるからな!』
指示に従ってぴゃぴゃっと終えて手を振ると、
さっきまでの晴れ間が嘘の様な土砂降りに見舞われた。
梅ちゃんも霞の様に消え失せている。
「はぁー。そこら辺融通利かないんかい...めんどくさいなぁもー...。
よいこら、しょっと。あ。」
...まーた婆臭い事言っちゃった。癖ついてるねこれはもう。
いい加減治さないと教室でボロが出そうで怖いなぁ...。
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