因果書記と存在崩壊文書
「世界は、言葉でできている」
それが〈因果書記〉と呼ばれる存在の第一声だった。
「レイ・アルスター。“反射”というスキルを持つ者。
あなたの存在は、“言語による世界定義”を脅かす――よって、削除対象」
彼女の背後に浮かぶのは、空中に浮遊する無数の“白紙の本”。
そのどれもが、世界のあらゆる事象を言語として記録し、
そして、定義しなおすことができる“存在設定書”。
「この瞬間から、あなたに関する“記述”を、私が上書きする。
レイ・アルスター。性別、無。年齢、未定。存在目的、虚無。
スキル《反射》――未獲得」
――レイの足元が、抜けた。
視界が揺らぎ、指先の感覚が薄れていく。
(俺が……消される?)
「定義は、命。言葉こそが、在り方。
それを持たない存在は、“無”となり、世界から零れる」
因果書記は淡々と書をめくり、レイを無名の深淵へと引きずり込もうとする。
だがその時――
「レイ、“立って”!」
エリスの声が、彼の意識を呼び戻した。
「忘れないで。“反射”とは、《存在定義そのものへの異議申し立て》!
あなたが、あなた自身であると“否定できる”なら、
その否定こそが……あなたの存在理由になるのよ!」
ドクンッ!
レイの胸の奥に、何かが灯る。
「……名前を……奪おうってのか」
レイの声が、深く低く響く。
「悪いけど、俺の存在は“否定”に支えられてるんだ。
消される前に、“定義しようとする力”ごと叩き返してやるよ」
彼の手が光を帯びる。
スキル《反射》:
「起動コード:対概念拒絶モード
定義入力に対し、“存在反証”を即時生成
――《逆構文構築》、展開」
レイの背後に、黒い“反定義の文字列”が立ち昇る。
「定義なんざ、知るか。
俺が“俺だ”って言う限り、それが真実だ!」
彼が一歩、地を踏むたびに、因果書記の文書が燃えて消えていく。
因果書記が、わずかに瞳を揺らす。
「あなたは……“再定義不能”……?」
「ちげえ。“定義を拒絶する”ことが、俺の定義なんだよ」
そして、世界に亀裂が走る。
書記が掲げた書物が、レイの手によって――“存在ごと反射”された。
ズガァアアアッ!!
空間が、言葉と共に崩壊していく。
書記が後退しながら叫ぶ。
「この男は……“物語の拒絶者”だ……!
言語によって構築された世界にとって……最大の敵!」
レイの足元に、燃える言語の残骸が広がる。
「それがなんだ。俺は、物語の枠ごと――ぶち壊してやるよ」
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