退化の暴力

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

 いい女と出会っちまって家を3日も留守をした。前回は1日帰らなかっただけで酷い目にあったというのに、私は二の舞を踏んでしまった。でも少し張り切り過ぎて疲れた為小走りで帰っている。


 もう昼の二時で雲一つなく青空一面というのに人が誰もいなかった。この世の最期とでも思ったが、それは今までいい女と身体を交わらせた幸福からの落差からそう思っているんだと考え直した。


 家の前へ着き上着のポッケから鍵を取り出す。何やら扉の奥が騒がしい。やっぱり私は二の舞を踏んだようだ。覚悟を決め。鍵を開ける。重い扉をゆっくりと開けると———


バサバサと顔に翼が当たった。セキセイインコという小鳥だが、これが数十羽もぶつかれば痛いというものだ。バサバサと翼が鼻の穴に入り、私は鼻血を出した。一羽のセキセイインコに私の鼻血が染みついた。何故か彼、(確かオスだったと思う)は他の仲間にもその血を翼に付けて共有していた。私はポッケに入れていたライターの火を点け鳥たちを脅した。退いたその時私は更に前へ腕を伸ばし1羽のセキセイインコを燃やし、床について黒焦げになったそれを私は踏みつけた。


 ペットはまた飼えばいい。人間こそが生物の頂点だと分からせなければならなかった。怖気着いた他の鳥たちは私の方ではないどこかへと飛んでいた。私はポタポタ垂れる鼻血を拭くためにティッシュを求め、リビングへと向かった。


 リビングに入ると、刺激臭がした。おそらく糞尿だろう。そしてすぐさまいつもは愛くるしい肉球が溝内にもろ喰らった。観葉植物に隠れて三毛猫が私にドロップキックをしたのだ。それにより鼻血がボタっとカーペットに落ちてしまった。このカーペットは捨てることにしよう。そうこうしていると他のペルシャやアメリカンショートやマンチカンなどが私に襲い掛かる。私の靴下を脱がせ、そのまま足に噛みつくものもおりゃ、顔に飛び掛かりそのままひっかくものもいる。私は痛くないと言うと嘘になるがそれよりもなんだか腹が立った。

「わぁぁぁぁ!」

私は叫んでみた。実際痛いのだから叫びたくなるもんだが、叫んだ。すると猫が一瞬キョトンとした。いつもなら癒される可愛い姿だが、今では間抜けにしか見えなかった。私は一匹の猫の尻尾を掴み、思い切りぶんぶんと振り回す。そして、ベランダの窓を開け思い切りぶん投げた。塀の壁にぶつかり、アメリカンショートは鈍い音をたてた。他の猫たちも唖然としていたが、私は許す気がなく、糞尿などを裸足で踏みながらも一匹一匹猫をぶん投げてやった。最低でも背骨は折れているだろう。換気もかねて窓は閉めなかった。


 私は糞尿を踏んだこともあってかシャワーや湯舟に入ろうと今服を脱いで風呂場に入った。シャワーから出てくる湯が色々な傷に沁みて悲鳴をあげそうになる。ただ、同時に気持ちが落ち着いても来る———足首に何かが捲きついている。


 私はシャワーを足元にかけてみた。思いがけなかったようで、足首に捲きついていたそれの力が弱まり外れた。しかし、そいつはその思いがけない行動に腹を立ててか、私の脇腹に噛みついてきた。そいつは今私が持っているシャワーヘッドに似たコブラだった。毒がある。マズい!?急いで、血清を取りに行かなければ死んでしまう。再び足首にコブラが捲きついてきたが気にせず、風呂場を出ようとすると、一斉に蛇たちが飛び掛かり巻き付いてきた。アオダイショウにニシキにガラガラヘビなど多種多様のヘビが私の体に捲きついてきたが、これらも無視しようとした。しかしだ。首は洒落にならないのでそいつは思い切り噛んで湯舟にそいつを放り投げた。チャポンと聞こえた。そうだ、風呂のお湯入れてる最中だった。しかし気にしていられず、蛇に体中捲きつけられて、オシャレした私は何とか扉を開けることが出来、そのままシャワー室を後にした。早く戻ればお湯は溢れないだろう。


 血清は私の部屋にある。向かう途中にヌメっとしたものが首元に張り付いた。蛙だ!?天井を見ると、アマガエル、ウシガエル、アカガエルなどなど、これまた蛙達が天井にさかさまに貼りつき、次々と落下してくる。顔に張り付き私のまぶたをグーで殴ってくる。ボコボコにされている。私に捲きついている蛇にとってごちそうなのに、何故か見向きもしない。このままでは目が開けられなくなってしまう。さすがに血清優先とは言え、こちらも無視が出来る状況ではないと私は判断した。私は咄嗟に顔面に張り付いている蛙ごと壁に叩きつけた。蛙はぐちゃと潰れた。また天井から蛙が降って来た。私は蛇を持ち、掃除機のように蛙を食わせた。顔面に張り付いたやつは再び壁に叩き潰す。それらを繰り返すと、次第に蛙は帰っていった。


 蛙ゾーンをくぐり抜け部屋に入ると、特に変化はないように思われた。大きな壁一面の水槽も大丈夫そうだった。それよりも血清だ。私は机の引き出しを開け血清を探した。確か、ここの引き出しに、どこだ、早くしないと死んでしまう。イライラしていた。この蛇が重いからだ、つまりヘビーってことだ。そう思い私は机の角に蛇を刺すようように当たって見た。ヘビから血がぴゅーと噴き出た。なんだか軽くなったような気がする。私は引き出しに挟めそうな蛇をはさんだりなどもした。そして思いきっり引っこ抜くといい感じに真っ二つになった。


 しかしこんな調子で蛇を殺していても、血清が見つからなければどうにもならない。私は焦り思いっきり机をドンと叩いた。すると、蛇にダメージがあったようだが、壁に飾っていたたくさんの昆虫標本が次々と倒れていった。あの標本は子供の時からの大事なものだと私は慌てて標本にかけよるが———

「痛い!」

標本から落ちた昆虫の肢などを踏んでしまったようだ。これが結構いたい。これはカブトムシの角か。蛇の重さもあって小さな足が私の足の中へと入ってしまった。痛い。ピンセットで抜かなくては、いやそれよりも血清だ!?再び引き出しを探す。あった!ちくしょう!最初に探した引き出しじゃないか!私はイライラして足をドタドタした、すると又、昆虫のバラバラ死体と踏んでしまった。涙をこらえて、私は血清を注射した。一安心だ———ドンドンドン


 水槽を魚群が体当たりをしている。そして、今見ると、ヒビが入っている。私は急いで逃げようとするが、また昆虫の何かを踏んでしまった。蛇の締め付けも、この水槽が割れることを察知しているのか、緊張していてさっきよりもきつくなっていた。ますます動きが鈍くなる———パリン、バシャー!!!


 魚たちは私に噛みつく。もうどうでもいい。この魚はなんだ?覚えてない。何故私はこんなにも魚を、というか今私は水に流されている。水槽が割れたということはそういうことだ。蛇たちもいつのまにかどこかへ行ってしまった。今は魚が私の腕を噛んでいる。ああ痛いとも。痛いさ。


 ノアの箱舟をこれ程までに欲しいと思ったことはなかった。しかも流されてる最中案の定風呂のお湯も溢れて混ざっている。ぐったりしたあの時の蛇も一緒だ。そしてどこへ向かうのか、水の色も赤い。私の血だ。私は今日死ぬのか。冗談じゃないぞ!人間こそが生物の頂点だ。何故に他の生き物にここまで好きにさせられなければならない。私は私の為にお前たちを飼っているのだ!人間が上だ!人間こそ生物の最終進化なんだ!!!


 開けっ放しのベランダの窓へ流されていく。外でうずくまっていた背骨が折れた猫たちも一緒に流される。あれ、水の温度が上がっている気がする。空がなんだか赤いな。 ———空を見上げると赤く燃える怒りが私に終わりを知らせようとしていた。


 鳥類→哺乳類→爬虫類→両生類→昆虫→魚類と襲われ、まるで逆行だ。進化の歴史を遡っていっているような。どうやら地球はやり直しをしたいらしい。おそらく人間抜きで。

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退化の暴力 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615

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