第8話 オレは小説家になるよ
「というわけで福谷、小説家になるにはどうしたらいいのかオレに教えてくれ!」
今日も今日とて菊池は藪から棒がすぎる。
「急だね」
「思い込んだらヨシニチだろ」
「思い立ったがキチジツな」
もはやわざと間違えているの?
「そもそも菊池、小説なんてロクに読まないだろ」
「失礼な! あるぞ、夏目漱石だろ」
「意外な文豪が飛び出して来て驚きを禁じ得ないよ」
「それと芥川龍之介」
「嘘だろ、僕は夢でも見ているのか」
「宮沢賢治、森鷗外……」
そこでようやく気付いた。
「全部教科書に載ってるね」
「『舞姫』の続きが気になって夜しか眠れないぜ」
僕は盛大にため息を吐いた。
「『舞姫』はあれで完結だよ」
菊池は大きく目を見開いて唇をワナワナさせる。
「そんな! じゃあエリスたんは……エリスたんはどうなっちゃうんですか! あんまりだ!」
「確かにひどい話だよね」
「豊太郎、許すまじ」
「で、小説家になるって、どうしてそんな無謀な事を考えたんだい?」
「いい質問だ」当然の疑問だろ。「文豪になれば、モテるだろ?」
またモテようとしてるのか、菊池。だがこの教養のない同級生のために、少し話に付き合ってやらんこともない、と気を取り直す。
「どんな小説が書きたいの?」
よくぞきいてくれた! と言わんばかりに菊池はアゴに手を当てて考える仕草を見せる。
「そうだな。昔むかしある所におじいさんとおばあさんが」
「日本昔ばなしやめろ」
「エロスに激怒した」
「相当ストイックな太宰治だね」
「錆び付いた車輪が悲鳴をあげて僕らの身体を運んでゆく」
「明け方の駅にかな?」
「今年1200個の密室で1200人が」
「おいそれはマジでやめろ。メタ探偵の匂いがする」
菊池は椅子にもたれかかって大きく息を吐く。
「スランプだ!」
「ウン、まだ書いてもいないよね」
「もっとオリジナリティのある、独創的で個性的なサムシングが欲しいぜ」
語彙力はだいぶ独創的ではあると思うけど。
「書きたいジャンルはないの? ミステリーとか恋愛モノとか、純文学とか」
「ウーン、やはり魔法少女モノかな」
「魔法少女で文豪めざす人を始めてみたよ?」
「だって流行ってるじゃないか。プ■キュアとか」
「プ■キュアを魔法少女モノに分類するのには議論の余地がありそうだけど、プリキュアはずっと昔からやってるよ」
「えッ! そうなの?」
「二十年前からあるから菊池よりも年上だよ」
「ちょ、まて。悪くないな……」
なにが悪くないのかは聞かないでおこう。
「ホラーとかどう? 流行ってるじゃないか」
「よく考えたら流行りに乗っかるみたいで癪だな」
おっ、方針転換をはかるようだ。
「ニッチなところを狙うんだね」
「侮るなよ! エッチなのは書かないぞ」
「ニッチだよ」
「ハッチポッチステーション?」
「それはグッチだね」
「神は死んだ」
「……菊池、実はすごく博識なのでは?」
そのとき、菊池は世界の真実に気がついてしまったかのような勢いで立ち上がり、閃いた! と叫んだ。
周囲の視線が刺さる。みんな、ゴメンね。
「名作が生まれる予感がする! 湧き出てきたぞ!」
僕は一応尋ねることにした。
「一体なにを思いついてしまったんだい?」
菊池は答えた。
「変な家に住む1200人の魔法少女がドイツに留学する話だ!」
「なんのために?」
「無論、エリスたんを救うためにさ!」
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