ONE MORE TIME
月丘翠
高校生編
第1話 あの時に戻ってる!
誰しも思ったことがあるだろう。
もしあの時こうしていれば―
30手前で同級生たちの結婚ラッシュが始まった。いくら晩婚化が進んでもやはり30までに結婚したいという女子は多い。
30を超えると一旦ラッシュは終わるが、今度は後輩の結婚ラッシュが始まる。
今の部署で結婚式を控えている人が2人もいる。
二ヶ月連続の結婚式は財布に痛い。
とはいえ、呼ばれたお祝い事に参加しないわけにもいかない。
お昼ご飯をどうしようかと財布を覗いて、カップ麺を手に取った。
20代の頃はよかった。
一般企業に就職して、初めてのことだらけだったけど、出来ることが増えて、上司にも褒められてやりがいがあった。でも30代となると、ベテラン扱いで後輩指導に責任の重い仕事も増え、出来ることが増えてもそれは当たり前で、ミスすれば怒られるそんな風に変わっていった。
そして同期達は結婚して辞める人いたし、産休に入っている人もいる。
社内の自分の席で一人カップ麺を啜った。
虚しい―
すずは、ため息をついた。
明日は急遽休みをもらって実家に帰らならければならない。
休憩時間は、まだあったがパソコンに向き合った。
父から急な呼び出しがあったのは一週間前だった。
元々持病で足が悪かったが、それ以外は元気だったので母が亡くなってからも一人で生活していた。しかし、いよいよ田舎の大きな家を一人で管理するのが厳しくなってきたようで、家を売りに出すことにしたということだった。駅前のアパートに来週には引っ越すので片付けに来るように言われたのだ。
父はいつも急に色々勝手に決めるところがあった。
そんな父に母はよく「相談してって言ってるでしょ」と怒っていた気がする。
父は思い立ったら行動しないせずにはいられない性格なのは、今も変わらずのようだ。
そういうわけで、翌日久しぶりに実家に向けて新幹線で向かっていた。
実家に帰るのに4時間以上かかるため、盆と正月に帰るくらいで、ほとんど帰ることはなかった。父は放任主義なので特にそれについてとがめてくることはなかったので、それに甘えていた。
父も今年で60を迎える。
そりゃあ持病も悪化するわけだ。
新幹線を降りて、最寄りの駅まで電車で向かい、バスに乗り込んだ。
駅に降りても思ったが、本当にこの町は変わらない。
変わったのはバスが30分に1本だったのが、1時間1本に変わったことくらいだ。
まさにドのつく田舎だ。
バズに揺られながら、窓の外をみる。
田んぼに畑の景色が広がっている。
高校、大学とこのバスを利用していた。
1本でもバスに乗り遅れると学校に間に合わないため、よく走っていた気がする。
「すず」
懐かしい声が胸の中に響いた。
川嶋大吾。
大好きだった彼ともこのバスをよく利用していた。
彼は駅近くの家なのでこのバスに乗る必要はないのだが、よく家まで送ってくれた。
バスの中で些細な会話をするだけでも本当に楽しかった。
彼と別れてからも、何人かと付き合ったが、人生で一番彼を私は愛していたと思う。
若い頃の恋だから、純粋だったのもある。
(あの時、彼のところへ行っていたら運命は変わっていたのかな)
純粋だからこそ、最後に彼の手を握ることができなかった。
そんな後悔が今の胸の中にある。
ふと横を見ると、バスの窓に自分の顔が映っている。
あの頃と違って、しわが少し増えて、おばさんになっている。
全くイヤになる。
彼が今の私を見ても私だと気づかないかもしれない。
そんなことを考えていると、バスは山道に入っていた。
この山道を超えて、下ったところに私の実家がある。
バスはカーブを何度も曲がりながら、山を登り、そして下っていく。
あと少しだ、そう思った時、バスの速度が一気に上がり始める。
ここはカーブが多く、この速度で行けば絶対に曲がり切れない。
そう思った瞬間―。
バン!ガン!という大きな音がして、バスが逆さまになって落ちていく感覚があった。
〇●〇
目を覚ますと、すずはベッドの中にいた。
天井をみてまずは違和感があった。
「ここは・・・?」
周りを見渡すと、どうやら実家の私の部屋のようだった。
でも様子になんだか違和感を感じる。
起き上がると、懐かしい匂いまでしてくる。
「すずー!起きなさい」
母の声がする。
そんなわけがないと思いながら、階段を駆け下りると、エプロンをつけて朝食を運ぶ母の姿があった。
驚きで声が出ない。
そんな私の様子に気づくこともなく、母は怒った顔で「何回起こさせるの!?」と小言を言いながら朝食を準備している。
「母さん・・・なんだよね?」
「何意味わからないこと言ってるの。早くご飯食べなさい」と席に着くように促してくる。いつもの場所に座ると、「早く食べないとバスに間に合わないわよ。バスに乗れなくても車で送ったりはしないからね」そう言って、母は妹のななを起こしに部屋に向かった。
一体何が起こっているのかわからない。
そう思い、ぼんやりしていると父がのんびり新聞を広げながら、新聞を読んでいる。
父の顔が、いつもより若く見える。
「あの、お父さん」と話しかけようとして、新聞の日付が目に入った。
2011年5月30日―
「嘘でしょ・・・」
混乱していると「まだ食べてないの!」と久しぶりに母に雷を落とされ、反射的に朝食をかきこんだ。
自室に戻ってクローゼットを開けると、高校の制服がかかっている。
「2011年だから・・・高3か」
鏡に映る自分は高校生の時にお気に入りだったパンダのパジャマを着ている。
茶色に染めてパーマをかけていた髪は、黒髪ボブになっている。
「マジなのか・・・」
制服をまじまじと見ていると、部屋の扉が開かれ「早く高校へ行きなさい!」と母にまた一喝されてしまった。
仕方なく制服に着替えると、なんとか時間割を探し出し教科書を詰め込んで、学校へ向かった。
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