他人を寄せつけない孤高クールな美少女が、冴えない俺だけを寄せつける
猫又ぬこ
《 第1話 美少女からの呼び出し 》
6月上旬の朝。
「あのさ
「どうして?」
「いや、よかったらカラオケでもどうかなーって。もちろんオレの奢りで!」
「悪いけど興味ないわ」
「あ、じゃあ他にやりたいことは? 如月のやりたいことに付き合う――」
「そうじゃなくて、あなたに興味がないの。恋愛したいなら他を当たってくれる?」
2年2組の教室では、一つの恋があっさり終わりを迎えていた。
失恋したのは隣のクラスの男子だ。廊下に出た彼を友人たちが「だから無理だって言っただろ」「如月は恋愛に興味ないんだよ」「放課後はカラオケで残念会だなっ」と明るく出迎える。
振られた男子も失恋前提の告白だったのか、「あの如月に見つめてもらったんだ。告白してよかったぜ」とたいして気にしてないようで、出入り口を塞ぐように立っていた友人たちと談笑しながら去っていった。
そんな青春の一ページを見届けてから、俺は教室に入った。
廊下側最後尾の自席にカバンを置いていると、クラスメイトが「顔色一つ変えずに振るなんて、如月さんってほんとクールだよねっ」「凜としててカッコイイよね~」「女子でも惚れちゃうよ」などと盛り上がっていた。
たしかに如月は美少女だ。
顔立ちは人形のように整い、腰まで伸びた黒髪はサラサラしていて、切れ長の目は長いまつげに縁取られ、アイドル顔負けの容姿を持っている。
背も女子にしては高く、ブレザーに包まれた胸元は大きく膨らみ、まるでモデルのようなスタイルを誇っている。
優れているのはルックスだけにあらず。如月は成績優秀にして運動神経も抜群で、家庭科の授業でも非凡な才能を発揮していた。
如月は――
そんな如月が、俺をガン見している。
如月とは席が隣同士だ。俺の右隣には窓しかないので、如月が筋金入りの窓マニアでもない限り、俺を見つめていることになる。
俺の顔になにかついてるのかな? 一度トイレに行って確かめてみるが……鏡には特徴のない平凡な男子高生が映っているだけだ。
なのに如月は教室に戻ってきた俺を切れ長の目でロックオンする。気づいていないふりをしつつ小説を開いたが……こうも見つめられると読書に集中できない。
「席につけー」
と、チャイムが鳴り、担任教師がやってきて、ホームルームが終わりを迎える頃になってもなお、如月はこっちを見続けている。
まさか授業中もこの調子なのか? いや1時間目は体育だ。月曜の初っ端から運動するのは気が滅入るが、謎の視線から解放されるのはありがたい。
そう思った矢先、如月がルーズリーフになにやら文字を書き始めた。それを丁寧に折りたたむと、体操服入りのサブバッグを手に取り、教室を出ようとする。
そして俺の前を通り過ぎざま、そっと机の上に紙切れを置き、教室をあとにした。
これはいったい……。
如月の行動に困惑しつつ、おそるおそる紙を開いてみる。
そこには丸みを帯びた綺麗な字で、こう書かれていた。
『今日の放課後、1人で屋上に来て』
あの如月から呼び出しだ。これが普通の男子なら大喜びするだろう。告白されるのではないかと期待を膨らませ、放課後を迎えるまでそわそわするに違いない。
俺は違う。
悲しいかな、如月が俺を好きになるわけがないという自信があった。
なぜなら如月は多くの男子をとりこにしてきた美少女で、対する俺はモブだから。
如月はなにを考えてるかわからないミステリアスな女子だが、俺に好意がないことくらいはさすがにわかる。
ではなぜ如月はこんなメモ書きを渡してきたのか? その理由は、おそらくあれと関係があるはずだ。
体操服に着替えながら、俺は一昨日の出来事を思い返した。
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