パート25: 遺物の波紋と集まる影
王都地下から、最初の古代文明の遺物を持って帰還した。
公爵邸に戻ると、エリック老人が待ち構えていた。
「おお! 帰られたか、アルト公爵! 遺物は!?」
俺はアイテムボックスから、あの半透明の結晶体…遺物を取り出した。
エリック老人は、遺物を見るなり、息を呑み、その手に取った。
「間違いない…! これが、王都地下に眠るとされた『叡智の結晶』…!」
エリック老人は、遺物を手に持って興奮している。
そして、俺の体をじっと見つめ、さらに目を丸くした。
「そして…貴方様の御力! 見違えるほど、洗練されておる! まさか、これほどまでに共鳴するとは…! 我が想像を遥かに超えておる…!」
エリック老人は、俺の力の変化を正確に見抜いた。
遺物による強化は、俺の力に、より精密な制御と、底上げされた出力をもたらしたらしい。
「この『叡智の結晶』は、古代文明の知識と情報を蓄積した遺物と言われておる。貴方様の古代魔法の力と共鳴することで、眠っていた知識や、力の可能性を引き出したのじゃろう」
エリック老人は、遺物の重要性について語る。
どうやら、遺物は単なる力の増幅装置ではないらしい。
「古代文明が遺した遺物は、これだけではない。大陸の各地に、いくつも存在すると言われておる。それぞれが異なる力や、秘密を宿しておるはずじゃ」
エリック老人は、他の遺物の存在についても匂わせた。
「特に強力な遺物は、『滅亡の災厄』とも呼ばれる、古代文明の滅亡の原因に関わる遺物とも言われておる…」
(滅亡の災厄…? なんかゲームで聞いたことあるような…)
エリック老人の話は、俺の好奇心を刺激した。
自分の力の探求、そして古代文明の謎。ゲームのシナリオとの関連性。
それらが、一つの「遺物」というキーワードで繋がっていく。
「他の遺物も、エリック爺さんは場所を知ってんのか?」
俺が尋ねると、エリック老人は意味深な笑みを浮かべた。
「いくつか、伝承や資料に記された場所を知っておる。ただし…そこへ辿り着くのも容易ではない。そして…この遺物を狙っているのは、ワシや貴方様だけではないじゃろう」
エリック老人の言葉は、現実となっていた。
シルヴィアが、また不穏な情報を持ってきていたのだ。
「…教団。『叡智の結晶』入手者、アルト公爵と特定」
「…教団、公爵への監視、強化。遺物奪取、計画の兆候」
「…隣国帝国、古代文明の遺物、収集。公爵の力と遺物、関連性を危険視。武力による奪取、検討」
「…王宮、公爵の遺物入手、把握。保護か、利用か、思惑複雑」
シルヴィアの報告は、遺物を巡る複数の勢力の動きを明確に示していた。
宗教組織『光の神』教団。隣国レガリア帝国。そして、俺がいるクライフェルト王宮。
皆が、俺と、俺が手に入れた(そしてこれから手に入れるであろう)遺物に関心を持っている。
(マジかよ…どんだけ面倒なんだよ)
俺は頭を抱えたくなった。
遺物を手に入れたことで、力が強くなったのはいい。
でも、それ以上に、面倒事の規模と種類が激増している。
リリアーナは、遺物によって俺の力がさらに高まったことを喜びつつも、宗教組織や隣国が俺を狙っているという情報に、強い不安を抱いている。
「アルト様…皆様、アルト様の御力を…なんて危険なのでしょう…!」
ミュウは、難しい話は分からないが、俺やリリアーナ、シルヴィアの様子から、何か大変なことが起こっているらしいと感じて、不安げに俺を見ている。
シルヴィアは、完全に戦闘態勢だ。情報収集と、俺への脅威となりうる存在の排除に集中している。
エリック老人は、そんな俺たちを満足げに見ている。
彼にとって、俺は古代文明の謎を解き明かすための道具なのだろう。
だが、俺も馬鹿じゃない。
自分の目的のために、俺を利用しようとしているのは分かっている。
(まあ、いいだろう。どうせ面倒事からは逃げられないんだ。なら、全部片付けてやる)
俺は、エリック老人の思惑に乗ることにした。
遺物を全て集めれば、古代文明の謎が解けるのかもしれない。
そして、俺の力をさらに高めることができるだろう。
それこそが、この面倒な世界で、俺が平穏を手に入れるための、一番の近道なのかもしれない。
「エリック爺さん。次の遺物はどこにあるんだ?」
俺が尋ねると、エリック老人は目を細めた。
「ふむ。次の遺物、『天空の鏡』は…遥か北の大地、雪深い山脈に隠されておる…」
北の大地。隣国レガリア帝国の勢力圏に近い場所だ。
遺物探索は、宗教組織、隣国、そして王宮といった、複数の勢力との大規模な争いへと繋がっていくことになるだろう。
面倒なことこの上ないが、やるしかない。
俺と、俺の三人のヒロインたちの、次なる冒険が、今、始まる。
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