元の世界の私の家はお金持ちだった。

それこそ、定期的なマナーレッスンやピアノやバイオリンの稽古をやるくらいには。

私はちゃんとお嬢様をやっていて、それまでの生活に不満なんて持ってなかった。

アニメを知るまでは。

高等部に進学すると、庶民派の外部生も入ってきたりする。

彼女らにアニメを勧められ、あっさり沼にはまってしまった。

私の今まで知らなかった世界をたくさん知ることができて、胸が躍る。

習い事のない日には、彼女らとアニメ専門のショップに足を運ぶようになった。

しかし、そんな生活は唐突に終わる。

プラモデルを完成させたあの日。

家族が集まっていた。

そこには、私が隠していた漫画やアニメグッズの数々。

昼神家の人間として、恥を知りなさいと、責められる。

私は何も悪いことなんてしてない。

習い事を嘘ついて、休んだりしないし、成績も上位をキープしていた。

しかし、身内にオタクがいることは恥でしかないのだという。

私が集めてきたものは全部焼かれた。

やっぱり、あのプラモデルは持って帰らないでよかったな。

しばらく、監視がついてプラモデルショップに行けないから、そのまま置いてもらおう。

そのときのことはあまり覚えていない。

部屋に戻ったけど、家にいる気分じゃなく、夜中にこっそりと家を出た。

夜中の道をとぼとぼと歩いているときに、トラックが迫ってきて、私は今ここにいる。

私はあの時、もう終わっていいやと、半ば自殺の気持ちだった。

でも、生きてここにいる。

あの時から学んだこと、それは自分の望みは無意味だということ。

相手の望み通りに生きるしかないのだということ。

王子のハンス殿下の望みを叶えて、愛されることが賢い生き方なのだと。

それなのに、なんでこんなに涙が出てくるんだろう。

「クラーラ様に嫌われちゃった」

自分では冷静なつもりだった。

でも、聖女になれない焦りもあったのだろうか。

あんなひどいこと言うつもりなんてなかったのに。

消えてしまいたい。

そのとき、大きな振動を感じた。

地震とは違う、何か巨大なものが歩いているような。

様子を見に、庭に出ていく。

そこで、ハンス殿下と合流した。

「ひまわり、大丈夫か?」

「ええ、私は」

私は見上げる。

まだ昼の時間だが、曇りのため薄暗い。

そして、ビル10階ほどの異形の怪物がいる。

「ハンス殿下、あれは?」

声を震わせながら、尋ねる。

「災いだ」

「え?」

「そちらの世界で言うなら、怪獣といったところかな」

あれが災いだったのか。

聖女関係はシャットアウトされていたから、分からなかった。

あれに対峙できるのは、聖女の祈りだけ。

「ようやくお出ましね」

クラーラ様がやってくる。

「換装」

そう言うと、ヘルメットをかぶり、体のシルエットが見えるダイバースーツみたいなものに一瞬に着替えていった。

「来なさい、フェンリル」

そう言うと、クラーラ様の姿は光の粒子のように一瞬で消える。

そして、怪獣に対峙する巨体が現れた。

怪獣と同じ高さで、全体がシルバーで、クラーラ様と同じ青い目を輝かせている。

「あれは何ですか?」

聖機士せいきしという災いと戦えるもの。そして、聖機士操縦少女。これがこの世界の聖女だ」

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聖()女のなり方 神凪紗南 @calm

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