⑥
元の世界の私の家はお金持ちだった。
それこそ、定期的なマナーレッスンやピアノやバイオリンの稽古をやるくらいには。
私はちゃんとお嬢様をやっていて、それまでの生活に不満なんて持ってなかった。
アニメを知るまでは。
高等部に進学すると、庶民派の外部生も入ってきたりする。
彼女らにアニメを勧められ、あっさり沼にはまってしまった。
私の今まで知らなかった世界をたくさん知ることができて、胸が躍る。
習い事のない日には、彼女らとアニメ専門のショップに足を運ぶようになった。
しかし、そんな生活は唐突に終わる。
プラモデルを完成させたあの日。
家族が集まっていた。
そこには、私が隠していた漫画やアニメグッズの数々。
昼神家の人間として、恥を知りなさいと、責められる。
私は何も悪いことなんてしてない。
習い事を嘘ついて、休んだりしないし、成績も上位をキープしていた。
しかし、身内にオタクがいることは恥でしかないのだという。
私が集めてきたものは全部焼かれた。
やっぱり、あのプラモデルは持って帰らないでよかったな。
しばらく、監視がついてプラモデルショップに行けないから、そのまま置いてもらおう。
そのときのことはあまり覚えていない。
部屋に戻ったけど、家にいる気分じゃなく、夜中にこっそりと家を出た。
夜中の道をとぼとぼと歩いているときに、トラックが迫ってきて、私は今ここにいる。
私はあの時、もう終わっていいやと、半ば自殺の気持ちだった。
でも、生きてここにいる。
あの時から学んだこと、それは自分の望みは無意味だということ。
相手の望み通りに生きるしかないのだということ。
王子のハンス殿下の望みを叶えて、愛されることが賢い生き方なのだと。
それなのに、なんでこんなに涙が出てくるんだろう。
「クラーラ様に嫌われちゃった」
自分では冷静なつもりだった。
でも、聖女になれない焦りもあったのだろうか。
あんなひどいこと言うつもりなんてなかったのに。
消えてしまいたい。
そのとき、大きな振動を感じた。
地震とは違う、何か巨大なものが歩いているような。
様子を見に、庭に出ていく。
そこで、ハンス殿下と合流した。
「ひまわり、大丈夫か?」
「ええ、私は」
私は見上げる。
まだ昼の時間だが、曇りのため薄暗い。
そして、ビル10階ほどの異形の怪物がいる。
「ハンス殿下、あれは?」
声を震わせながら、尋ねる。
「災いだ」
「え?」
「そちらの世界で言うなら、怪獣といったところかな」
あれが災いだったのか。
聖女関係はシャットアウトされていたから、分からなかった。
あれに対峙できるのは、聖女の祈りだけ。
「ようやくお出ましね」
クラーラ様がやってくる。
「換装」
そう言うと、ヘルメットをかぶり、体のシルエットが見えるダイバースーツみたいなものに一瞬に着替えていった。
「来なさい、フェンリル」
そう言うと、クラーラ様の姿は光の粒子のように一瞬で消える。
そして、怪獣に対峙する巨体が現れた。
怪獣と同じ高さで、全体がシルバーで、クラーラ様と同じ青い目を輝かせている。
「あれは何ですか?」
「
聖()女のなり方 神凪紗南 @calm
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