深海少女はどこまで落ちる

凪風ゆられ

落ちて おちて オチテ

 思い立ったが吉日。

 私と言う人間は既に海へ落ちていた。


 海に入るのだから水着にでも着替えようとしたのだけれど、そもそもそんなもの一着も持っていなかったから、結局普段通りの服のままで入水した。


 想像では真っ暗な中を落ちていくのだと思っていた。

 しかし現実は違って、海中は綺麗だ。

 月明りが静かに染み込んで、淡く弱く無限の世界を照らしている。


 もっと早く知っていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。

 

 頭からゆっくりと落ちていく私の横を、名前も知らない魚たちが通り過ぎていく。

 どこから生まれたのか分からない気泡が私が通った道を昇っていく。


 いいなぁ。ここにいる子たちは。自由で。


 体が重くなってきた。息も苦しい。

 気が付けば周りはどんどん暗闇に侵されていっている。

 初めは綺麗だと思っていた海の中も、時間が経って私が落ちていくほどにいつも私が見ていた光景に変貌していった。


 どこまで行っても、何も変わらない。

 私の感情はすぐに潰れていく。

 

 もしかしたらさっき見た景色も、今の感覚も全部全部幻なのかもしれない。

 本当は海に飛び込んだ時点で死んでいたのかもしれない。


 うん。それがいい。

 苦しいことはいいことじゃないから。


 私は瞼をそっと閉じた。

 もう二度と開きませんように。

 

─────────────────────────────しにたくないよ。


 

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深海少女はどこまで落ちる 凪風ゆられ @yugara24

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