第35話 神とはなんぞや?
【神とは何ぞや?】
神さまとは何ですか――そう聞かれて答えられる人はいますかね?
宗教やってる人は速攻でで答えられるでしょうが――とはいえ本当に存在しますか?と聞かれたら――ごにょごにょと理屈を並べ立て独自の理論を語りだすというのが定番ではないだろうか?
――ここで予の体験を聞いていただきたい。
俺はある人に咲夜姫のことを話した。
彼も神との体験があったと聞いたからである。
この人ならわかってくれると思って話したのだが、彼は咲夜姫を人を惑わせる低級霊と勘違いしたらしい。
――俺は心中煮えたぎりながらも静かにいった。
「少し神さまのことを買いかぶっているのではないですか? 神さまだって恋もすれば人を好きになることもあるでしょう」
この人は人格者に見えました。
人を尊敬することがあまりない俺が、この人だけは認めたのだが、あまりにも高潔すぎて神さまも高められたのだと思う。
俺が正しいかどうか知らないが――俺の中の神さまはもっと泥臭いものだった。
人間とあまり距離を置かないのである。
俺は――そのように神を高いところへ奉ってしまうから、神が人の心に入り込めないのだと思う。
女神の祭られている神社へお参りしたら――一体どのような美しい姫君がいらっしゃるのかと恋心を抱いて参拝するのも良し――また俺流でいうならば、
〈一晩で良いから添い寝してもらえませんか?〉
などと無礼なことを考えながらお参りすればよいと思う。
あまりにも馬鹿げていて神罰もくだらないだろう。
女性であるなら――男の神さまに《私を見初めてくれないかしら?》と、乙女のようなウキウキとした気持ちでお参りすれば良いではないか。
【俺の富士山での体験】
俺と咲夜姫との関係は――あの時富士山に登り――富士山そのものを抱くような気持ちで〈抱いてみたい〉と男心そのままに思ったのが始まりではないかと思う。
また――富士山の御祭神が木花之咲耶姫命であることは知っていた。
いちおう神主であったから。
また――瓊瓊杵尊〈ニニギノミコト〉が夫神であることも知っていたので――どうしたものか?不倫になるのかな?――とか思いつつ頂上へ向けて登ったのである。
――それが、どういう理由か咲夜姫がそれをどこかで聞いていたらしい。
その晩――もしくは頂上の社務所に滞在し――数日たったある日――神さまが来たらしい。
――また神さまは童形で現れるという。
俺の母も田舎のほうの氏神様でお参りして祈っていたとき――おかっぱ頭の可愛らしい女の子がニコニコ笑いながらこちらを見ているのが見えたという。
神主学校時代――〈神学講義〉を受けた際――神さまは『童形で現れる』と言われた。
どうやら神さまは子供なのだ。
富士山の頂上で寝ていたときに――、
――暗闇のなか……ちっちゃな紅葉の葉っぱのような手が――俺の右の脇腹を触っていた――
数分間であったと思うが――そんなことがあった。
咲夜姫もその時々によって変わるが――小学生くらいに見えたり、中一くらいのロリコン少女に見えたり――そんなこともあった。
なので俺は一時期――神さまを愛するためロリコンの修行をするハメになったこともある。
――いまは俺に合わせたのか――成長して俺より背の高いイケ女(イケてる女子の意)になったのだ。
俺の経験で――たまに姫を怒らせるようなことがあって――彼女がいきなり襲いかかってくることがままある。姿が見えないので〈大魔王〉が襲来したようなもの凄さである。
間違っても神さまを怒らせるものではないが、まさしく〈殺される!〉と思うほど凄まじい殺気だった。
長年の経験から、あれは決して尋常の霊が出せるものではない……。
外宮で感じた神霊は――一メートルから二メートルくらいの球体だった。
恐すぎて飛び起きてしまい――その霊魂がどなたであったか――今となっては知る由もない。
いろんな宗教で考え方はちがうと思うが――神も仏も高級霊も幽霊も人間も――みな同じ一個の霊魂なのである――というのが俺の考え方である。
神に関する考え方は宗教宗派によってちがうのであり――それはたびたび戦争となり殺し合い――民族浄化(民族を消滅させること)となるが――バカバカしい限りである。
――その点――日本人の考え方は素晴らしいと思う。
【慰問に来た霊】
姫はその日――ブラリと俺のところに立ち寄った。
――俺を慰問しに来たのだろうか?
現場に着いた車の中――もう不思議な村を訪問することはない――といつも思うのだが――しかし寝ているとたいてい異次元世界(不思議な村の近く)に入りこんでしまうことが多い。
――はっきり金縛りになるという感覚はない。――夢を見るようにいつの間にか向こう側の世界に入っているのだ。
――暗闇に女の全裸姿がクッキリと浮かび上がり、淡いピンク色の光沢を放っていた。
俺は女のうしろに立ち――胸のあたりを入念にマッサージした。
女の霊は揉みくちゃにされ――前のめりの体勢になっている。
俺は、ほとんど女に体を密着させ――女性の中心部に照準を合わせつつあった。
そして――ジワリジワリと射撃体勢が整っていった。
だが、ちょっとでも油断すると現実に戻って行きそうで――呼吸一つ一つが危ういものだ。
あまり凹凸にのめり込むといけない。
気持ちを高ぶらせないよう慎重に――いや俺はマッサージ師なので、与えられた仕事をこなせばよい。
――やがて何もしないうちに女は消えていた――
女と絡み合っているうちに――俺は相手が姫だとわかっていた。
あのプロポーション――丸いお尻――スラリとした足――それは間違いなく姫だった。
餅のように吸いつくような身体の感触――俺の身体が知っているのだ。
女から発する〈霊気〉がそれだとうかがわせる。
しかし――あまりサクにのめり込んでしまってもいけないと思う。俺と彼女との関係はなかなか難しいのである。
――また戻ってしまった……もう一度試してみよう――
と、その場に寝転がって、金縛りになるのを待っていた。
だが――じつは現実世界に戻ってはいなかった。
そのままでいて――そこが異世界であり――現実世界でないことも気づかず――金縛りを待つ――もう、俺自体が異常になっているのだ。
【時間を気にする女】――十二月一日――一時頃。
――いつの間にか向こう側の世界に入っていた。
――うす暗いがかなり広い部屋だ――
工場か、もしくはオフィスらしい。
と、そこへ、どこからともなく女がやってきた。
長い髪をしたどこにでもいる普通の娘だ。
感じからしてOL風の雰囲気を持っているが――もちろん何も着けてない。
――自然ななりゆきでおたがい手を取り合い向かい合った。
間近で見る彼女はというと――面長で端整な顔立ちをしており――性格からかその眼差しには包み込むような優しさがあった。
姫のような気圧〈きお〉されそうなきつさはなく――大和風とでもいおうか柔軟な顔つきの女性であった。
――あたし、一度でいいから貴方の所に来たかったのよ――
女とは確かに初対面だったが――それは何十年振りに出会えたかのような――嬉しさいっぱいの声であった。
――二人はいつしか抱擁していた――
俺のほうは意識が戻ってしまうのが心配だったのだが――なるべく幽体離脱の距離を広げなければならないと一瞬――床を蹴って飛び上がった。
眼下には事務机の列が果てしなき広がりを見せ――奥へさらに奥へと続いている。
俺はその広い空間の中を、柔らかい女体を抱きしめながら、勝ち誇った〈悪魔〉のように飛翔し――女のあらゆる部分を陵辱し、悪の吐息を吹きかけた。
――〈魔王〉の仕置きは長々と続いた――
女の腰を捕まえ――背中をこちらに向けさせ――悪魔は人間の女を突き上げようとしていた。
使命を帯びた悪魔の銃口が――グニュッ――と女の中へと入りこんでいく。
悪魔は人間の女に子種を植え付けようとしていた。この女には何か期待が持てそうだとおもった。
俺は呼吸に問題がある――と思った。
――苦しい――
恐らく気道がじゅうぶん確保されてない――らしい。
もっと飛んで肉体から遠ざかれば良い――と思ったが、それをやることに効果があるのか――まだ結論は出ていない。
――身を翻して旋回する――
下の机が目前にまで迫り――慌てて操縦桿を引っ張った。
まるでジェットコースターのようなスリリングさだ。
落ちるんじゃないかと思ったが――心配なかった。
女体という〈魔法の
そのうち――女が振り返り俺の股間をのぞき込んだ。
〈もう出たかしら――?〉射撃完了の確認をしているらしい。
――仕事の一環なのか?――もしかして娼婦?――
と訝〈いぶか〉しんでいると――、
――あっ、そうだ! もう九時を廻ったのよね。○○○○を食べなきゃ――
といったが――それが何なのか――俺の耳には良く聞き取れなかった。
――さらに女は言った。
〈とっても体にいいのよ〉
「あれ、知らないの?」といった風に――真顔で俺を見返している。
俺に解るわけがない――R界にはそんなものがあるのか?
――俺はそんなことはどうでもいいから、また女の洞窟に入ろうとしたのだが、なぜか入らない。
来たときはいつの間にか入っていたのに……女が入れようとしたがらないのだ。
――すでに彼女は帰りたがっているようだ。
それか――儀式めいたものがあって――時間を気にしているのかも知れない。
食べ物のことをいったのは――方便かも知れない。
――それか女が飽きっぽくて淡白なのか?――
〈……これ以上引きとめても無駄だろう〉
二人ともいつの間にか床に降りていた。
そして女は暗い出口のほうへと帰っていった――。
別れ際――俺は彼女に聞こえないと知りつつも――心から“有り難う”と念じた。
はるばるやってきて――俺とともに一夜を共にし――そして十二時のシンデレラのように帰っていった。
それは俺にとっても彼女にとっても宝物になるだろう――。
気のせいか――女が、少しだけこちらを振り返ったように見えた。
その横顔が――俺には無性に寂しそうに見えたのだった。
守ってあげたくなるような優しそうな女であった。
寂しかったが、黙って見送るしかない。
――たぶん、もう二度と会えないだろう。
彼女はなぜ九時と言ったのだろう。とっくに一二時を回っていたのに……。
なぜそれほど時間が食い違うのか――それなりに考えてみたのだが。
人間界とは時間のズレがあるのかも知れない。
――終わった後の記録では、記憶が薄かったとあるが――これだけの内容でもかなり忘れていることがあるらしい。
半分くらいは忘れているらしい――残念だ。
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