第15話   歌 姫   

【妖艶なる歌姫】

 永い永い封鎖から解放された――霊界プロジェクトの再開だ。

 さて、やっとのことで霊たちの仕掛けたゴーストラッシュにも追いついた。

 まったく――霊魂に押しまくられるいっぽうで、まったく余裕のない毎日を過ごしていた。

 ちょっと余裕が出てきたので――ここで日付を入れてみようかなと思う。それで、少しは臨場感が出てくるのではないかと思う。


   ――八月一八日  

 三時まで原稿を書いた。

 そして眠りに就く――どうせ霊魂がくると思いガードを固める。

 まだプロジェクトが再開されたと決まったわけではない。

 〈もう一度おさらい――プロジェクト・R界プロジェクト:R界の存在を証明する壮大なプロジェクト〉

 

 また霊魂たちが襲ってくるかも知れない。

 もう女との凹凸は諦〈あきら〉めていた。

 彼らが行動を起こさないことは――どうやら俺の原稿が間に合わないので、体験させないらしいと感づき始めていた。


 さて、寝ようとしていた俺は――夢か――それとも異次元体験なのか――理解不能な夢幻の境地をさまよっていた。


 ――どこかの会社の一室で二人の上司と話している――

 俺は何かをしきりに聞いている。それがなにか自分でもわからない。

 その空間の中で――俺は現実にもどってからも覚えているように――しっかり記憶するよう心がけていた。

  もとの世界のことを考えるゆとりがあるくらいだから夢ではないだろう。


 いつもそうだが、短い会話ならともかく長い会話となると、あとでどういう内容だったのか、まるっきり思い出すことが出来ない。 

 ――これも脳内の記憶容量――なのかな?――


 部屋には事務関係のいろんな物が置かれていた。

 雑多な書類やファイルがブックスタンドに詰め込まれ、机の上にも山のように積まれている。

 ――場面が切り変わる――


 同じ建物の中らしいが、広い部屋の中で――俺と一人の女とあと二人誰かいて――何事かを話していたように覚えている。


 女は歌手の《内◯有紀》さんそっくりだった。内◯有紀そっくりのその女は――俺のほうを見ていたが――まるで催眠術にかかっているような、焦点の合わない自意識のない表情であった。

 なにか恥じらいらしいものがあるみたいでもあった。

 目が少し潤んでいて、ちょっと甘えるような顔つきで俺をジッと見つめている。

 ――世の中の女がみんな俺に惚れているような自惚〈うぬぼ〉れなのか――


 彼女の装いは白いブレザーと膝までのスカートといったスーツ姿であった。

 スラリとした細い体と白い服が、とても清潔そうで素敵な印象を受ける。

 それはテレビで見るのとまったく同じ印象であった。

 この人は白色系が好きなのだろうか。

 じっさい白が驚くほどよく似合う女性だ。

 俺は彼女といっしょに別の部屋へと歩いていった。

 ――まさか本物の彼女ではないと思うが、そう思ってしまいたい。

 

 ――彼女が前を歩き――俺はうしろから手を回して優しく彼女を包みこみ――そして自然な成り行きで行けるところまで行ってしまった――。


 もはやまわりの情景は目に映らなかった。それさえ消滅していたのかも知れない。


 俺はうしろからいきなり彼女に突入した。

 なんとも言えない幸福感に包まれた。姫とはちがうが、憧れの女性といっしょになれた――という満足感なのか?

 ――さらに俺は何度も何度も出し入れをくり返した。

 何ともいえない気持ちよさだった。

 現実の女では味わったことのない――まったく不思議な快感でもあった。

 〈少し学術的な私見を述べると――この時のような生殖行為機能的に意味はないがはかなりの快感をともなう。もちろん予も多少は実女性経験もあるが、どうやら――こちらの世界のほうの性感が強いようである〉


 俺たちは合体しつつ体が少しずつ前へと移動していた。

 俺の動きが激しいから――前へ前へと動いてしまうのだ。

 別の部屋へと続く入り口で――俺は彼女の身体を見ようとした。これは当然な判断だが――彼女の身体がない――。

 ――消えているのだ。

 まるで身体自体が異次元空間に吸い込まれているような――しかしそれでいて俺の下半身は女のそれにしっかり咥えこまれ――女のなかでのた打ち回っているのだ。

 〈不思議な話だ。俺のいる世界も現実世界からすれば異次元だが――そこからさらに別次元へと入り込んでいるのだ〉


 女の大きな桃だけは見えるのだが――あとはまったく見えない。

 目の前には部屋も見えるし、その向こうの出口からは明るい外も見えている。その中での失踪事件だ。

 ――不思議である。


 これに似たことは――この前も――あとも何度か起きている。

 女を捕まえようとして――女が別次元に消えるようい居なくなったことは何度もある。やはりいくつもの異次元空間が重なり合っているように思える。

 ということは――四次元とかそういうのではなく――多次元空間・多次元世界という考えになるのだが――どうなのであろうか?


 俺は不思議に思いながらも、そのままの体勢でもうひとつの広い部屋の中へ入っていった。

 ――それはそうと――彼女とはまだ一体となり繋がっているままだった。ここまで来ると素晴らしい――R界の女たちの大サービスである。


 それはそれとして俺のほうは――集中力と呼吸に心がけているのが精一杯だった。

 少しでも気が緩むと――あっという間に現実世界へと帰ってしまうのだ。

 ――というか一瞬で次元が切り替わる感じ――

 AV男優のごとく、がむしゃらに頑張っていたらしいが、ただ局部の強烈な快感だけは続いていた。


 行為のあいだ自分のいびきも聞こえてきた。

 〈これは実際に聞こえる。夢でこんなことはないだろう。自分の身体と魂・幽体が微妙なところにいて、現実の音が聞こえるわけだ。ということは、なにかの大きな物音で目が醒めてしまう確率が高い〉

 ――肉体のほうは泥のように眠りこけているらしい。

 それなのに呼吸のほうがスムーズではなく、現実にもどってしまいそうで危うかった。

 はらはらドキドキ――まさに薄氷を踏む思いだったが――それでも俺の運動は続いた。

 ――それは素晴らしいことだ。だいたいこんな場合、いつも失敗してしまうのだが、これほど長いあいだ凹凸行動がつづいた事自体、体勢が悪くて呼吸が苦しいが、R界のかなりの深度〈海に例えて〉まで沈降していたのではないかと思う――




 動かすたびに――まるでナマコにでも入れているような――何ともいえない感覚が大脳を突きぬける。

 また動かすたびに――時おり女の甘ったるい悲鳴にも似た声が聞こえてくる。

 それはとぎれとぎれであり、わずかに耳に響いてくる程度ではあったが、たしかにこの耳に聞こえるのだ。

 

 女のほうもかなり高ぶってきたようだ。身体が見えないのでどんな状態なのか、まったく情報が得られない。声だけが微〈かす〉かに聞こえるので、そこから情報を得るしかない。

 ――一瞬、女がのけぞった姿を見たような気もしたが――錯覚かもしれない。


 しかし、ここまで来ても爆発までいかなかった。

 というわけで――さらに深部まで到達しようと考えた。


 「グッ」と腰を入れると、一瞬、俺の凸が三〇センチも伸びたように感じて――洞窟に深々と突き刺さった。


 ――うっ……―― それは唐突の爆発的な感覚だった。

 あまりのその凄〈すさ〉まじさに――頭の中が真っ白になり――その反動で現実世界にもどってしまった。


 それにしてもあれはいったい何だったのだろう。

 いきなり凸だけが巨大化したのだろうか。

 もしかして――俺の性に対する想念が怪物化し――あのような巨大現象を引き起こしたのだろうか? 



♥入っていた時間が長く、成功したようにも思える今回のR界行だが、まだまだなのかも知れない。

 一番の成功例と比較してみると――まったく呼吸に苦しむことなく、なにをしても現実に戻ることはなかった。

 しかも現実世界と隔絶されていて――戻ろうと思っても戻れなかった。それで焦って《念》みたいなものを使って現実世界にもどったのだが――もしかしてあれも自分の力でもどったのではなく、霊の力によるものだったのかも知れない。

 それはまったく現実世界で生活しているのとまるで変わらなかった。

 じつは、もしかしてまるっきり死んでいたのだろうか?

 呼吸――これにつきるのだが、これがうまく行けばR界生活はうまくいく。

 幽体離脱というのは――ちょうど潜水服を着て深海へもぐっているのと似ていると思う。 

 実際体験しないとわかりにくいと思うが――あちらの世界に行くのは、ほんとうに宇宙服や潜水服を着ていくのと同じなのだ。

 それには生命維持装置・酸素吸入装置が絶対必要であり、それが不具合を生じてしまうと、いったん母船に帰るしかない。

 予の場合――いつも失敗してしまうのは、この酸素吸入用チューブが折れ曲がった状態で――酸素がおそらく少量しか供給されず、長い潜水・船外活動が出来なかったのではないかと思う。

 少し不思議に思うのは――完全に開放された時は――まったく自由に動けたことで――それは宇宙服や潜水服から吸気管(チューブ)を取った状態になったのと同じだった。

 完全にはわからないが、少しずつ理解していこう♥



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