第2話 酔っぱらいとギルドと開拓パーティ

 ギルドは今日もにぎわっていた。


 来るのは3週間ぶりだ。最初の一週間で自暴自棄になって以来足を運んでいない。


 仕事を探す冒険者が今日もひっきりなしに出入りしている。


 そんな彼らは少女、シルマに肩を借りながら歩く酔っぱらいの俺を見て奇異の視線を向ける。なんかヒソヒソ話もしている。



「うひひ、笑え笑え」


「大丈夫か?」



 くだらない独り言にもシルマは気を使ってくる。やっぱり良いやつなのだろうか。


 いや、まだ油断できない。ギルドまで本当に来たからと言って安心はできない。ギルドの中には半分犯罪者みたいなやつだって出入りしているのを知っている。


 そして、扉をくぐり中に入る。中も結構な人だ。


 俺はギルドの中の休憩スペースに案内されていく。



「あ、シルマ」


「帰ってきたか」



 そんな風にシルマに話しかけてきたのは二人の人物。


 金髪ショートの小柄な女と、二足歩行のでかい黒い狼、獣人の男だった。



「って、なにその人。酒場に行って仲間探すって言ってたけど結局連れてきたのは酔っぱらい?」


「今時酒場に冒険者は集まらんからなぁ」



 二人は酩酊状態の俺を見て言う。


 まぁ、ただの酔っぱらいにしか見えないだろう。いや、実際ただの酔っぱらいなんだった。俺はほぼ無職なんだった。



「喜べ二人とも。彼がパーティ候補の新しい魔法使いだ」



 しかし、シルマはまるで迷いなく言った。



「はぁ!? 冗談でしょ! ただの酔っぱらいじゃん!!」



 小柄な女、アリアは聞くなり叫んだ。



「紹介しよう。私のパーティの弓兵のアリアと獣人で前衛のリーオだ」


「なに普通に紹介してるのよ。本当に魔法使いなのそいつ!? 騙されたんでしょシルマ!」


「きひひ、騙されてんのは俺の方さ。A級パーティをクビになった飲んだくれをAA級パーティに雇おうなんて言うんだ。こんなの詐欺に決まってる。お前らも俺を騙そうってんだろ!!」


「なんなのよこいつ....」



 そうだ、こいつらもグルになって俺を騙そうって魂胆なんだろう。おそらく。なんかそうじゃない気がしてきたが。



「とりあえず水を貰った方が良いか。彼はだいぶ酔っている」


「見ればわかるわよそんなの! 絶対やめといた方が良いわよシルマ!!」


「まぁ、待ってくれアリア。話を聞いてくれ」



 そう言ってシルマは受付で水を一杯もらってきた。俺は受け取り飲む。冷たい水が胃袋から体全体に染みわたる。視界の回転も少しましになった。



「で、本当に魔法使いなのこいつ。冗談でしょ。早く酒場に返してきた方が良いわよ」


「いや、彼は魔法使いだ間違いなく。それも戦闘向きの魔力の色じゃない。だからか? シルマ」



 獣人、リーオは言った。こいつも魔力が見えるのか。獣人は見えるやつも多いと聞く。


 リーオの言葉にシルマはうなずく。



「彼は魔法の研究が好きな魔法使いだそうだ。間違いなく私たちのパーティ向きだ」


「なるほど。確かにな」



 リーオはうなずく。


 なんだ? 嘘だろ? 俺はどこからどう見てもただのどうしようもない酔っぱらいだ。なんで受け入れる流れになってるんだ?



「ちょっと。リーオまで何言ってるのよ。私いやよこんな酔っぱらい」


「戦闘向きの魔法使いじゃうちのパーティは務まらない。それでみんな辞めていくだろ。魔法と、魔獣と、それにまつわるアイテムの知識がどうしても新大陸の冒険には必要だ」


「それに彼がここまで酔っているのは自暴自棄になっているだけだ。パーティをクビになればそうなっても仕方ないだろう」


「ちょ、ちょっと二人とも。本当にこいつ連れてく気なの?」


「彼がOKさえくれるならな」



 そう言ってシルマは俺を見る。期待されている。良い回答を期待されている。


 だが、俺はまだ疑いを捨てきれていない。こんなうまい話あるわけがない。



「どうだろう....ふむ、そういえばまだ名前を聞いていなかったな。あなたの名前は?」


「ログ、ログ・ジーンヒルドだ」


「そうか。ログ、どうだろう。私たちのパーティに入ってくれないか?」


「バカ言え、こんなうまい話があるもんかよ。なんで俺がいきなりAA級パーティに入れるんだ。しかもそれなりの額をもらって! あり得ないだろう。お前たち本当にその『白銀の蹄』とやらなのか?」


「なんなのよこいつの疑り深さ」


「彼は自暴自棄で、なおかつ人間不信に陥っている。痛ましいことだ」


「勝手に痛ましがるな! 大体『白銀の蹄』ってのはなんなんだ。なんでAA級パーティで二つ名が付いてる。お前たちはなんなんだ」


「そうだな。そこから説明した方が良いだろう」



 シルマは深くうなずく。



「私たちは『白銀の蹄』、新大陸の開拓を主な任務としているパーティだ。未開の地を冒険し、人間が住める場所を探す。それを目的として動いている」


「新大陸の開拓? 開拓パーティってことか....?」



 開拓パーティ。それは俺も聞いたことがあった。冒険者パーティの中でも極めて特殊、そして、何より危険なことで有名なのが開拓パーティだった。

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パーティをクビになった魔法使い、開拓パーティに再雇用される @kamome008

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