秘密で繋がる、微妙な友情(1)
「なあ美羽、ちょっと耳貸せ」
「絶対イヤ」
一秒で断られた。
いや、そんな即答あるか。
「まだ何も言ってねえじゃん!」
「どうせまた、くだらないことだってわかってるから」
「俺だってたまには、まじめな話するっつーの」
「へえ、たとえば?」
試されてる気がして、つい胸を張った。
……何も考えてないけど。
「……俺、実は秘密抱えてんだよ」
「うさんくさっ」
「マジだって! しかも結構、深刻なやつ!」
「それ、学校でサボテン枯らしたとかじゃないでしょうね」
「もっとヤバい。国家機密レベル」
「そんなの、あんたが持ってたらこの国終わるよ」
マジで容赦ない。
美羽はニヤニヤしながら、俺を見上げてくる。
「じゃあ、もし俺が実は――アイドルだったらどうする?」
「売れてないアイドル?」
「おい」
「売れてるアイドルが、こんなジャージでチャリ通学しないって」
「変装だよ、変装。ばれたらまずいからな」
「ふーん、がんばってね、売れてないアイドル」
勝手に売れてない設定にされてるんだけど。
しかも全力で信じてない顔してる。
「なあ美羽、お前にもなんか秘密、あんの?」
「さあね。どうだろ」
「絶対なんかあるだろ。たとえば……実はジャージの下、プリン柄のパジャマとか」
「そんなスイーツ全開なわけないでしょ」
「じゃあ、こっそり変な特技持ってるとか」
「変な特技って、どんな偏見」
「たとえば、鼻から牛乳飛ばせるとか」
「小学生か」
ノリよくツッコミ入れてくる美羽に、思わず笑う。
「ま、いいけどな。美羽の秘密は、お前が教えたくなったら教えろ」
「……珍しく、やさしい」
「当たり前だろ。アイドルはファンにやさしくする義務があんだよ」
「やっぱ売れてないじゃん」
「おい」
それでも美羽は、ちょっとだけ口角を上げた。
たぶん、機嫌は悪くない。たぶん。
「じゃ、今日も秘密はお預けってことで」
「ちぇっ」
「その顔、最高に売れてない」
……今日もこいつには敵わねえ。
でもまあ、
美羽が笑ったなら、今日もいい日ってことでいいか。
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