4-5

 お姫様はたくさんの自分とともに宇宙を彷徨い、その過程で多くのことを学んだ。


 それは例えば、この世には汚い星が多い、ということ。人を傷付け物を盗むのが当たり前の星や、大勢の民が一部のエリートに首輪付きで支配されるのが当たり前の星とかね。

 そんな星々を見回って、お姫様はこう思った。彼らをを手助けしたい、と。

 我々の家訓、「」とは、まさしくこの想いが元だ。

 ガラクタ・ジャンクションの創造も、このときに思い付いた。


 きちんとした血筋を持ちながらも故郷を追い出されたプリンセスの、今までお城で学んできたノブレス・オブリージュの精神。それが本来無関係の人々に行き先を変更した……、ということさ。


「なんだか、すごい人だったんスね。オリジナルは」


 だろう?


「負けたってのにねー」


 よしてよチビ。


 だけど初めは全然上手く行かなかった。

 まあ当たり前さ。外から来た同じ顔の集団が何か言ってくるんだ。怖がられたし、攻撃もされた。

 それでも彼女は諦めなかった。何度も何度も訪問し言葉を交わし、言葉と愛を送った。

 今あたいのいきつけになってる星は、そういったプリンセスの努力が実ったが故に友好的になってくれているんだ。

 だからアタイは、彼女が亡くなった今でも、彼女を尊敬している。


「……どうやって、オリジナルスピカは……亡くなったんだ?」


 ああ、そうそう。その事が聞きたかったんでしたっけ、客人。


 簡単なことです。

 お姫様が追放されてから、大体二十年くらい経ってから。

 彼女の兄、ブルースフィアの王子様がお隠れになられました。

 ……一応言っとくけど「死んだ」ってことね。

 困ったことに、子を残す前に、です。


 それで跡継ぎがいなくなったブルースフィアは後継者が見つからず、結局、追放したはずのお姫様を元鞘に戻そうとした。

 ただ方法が良くなかった。

 かなり乱暴な使者でした。


 とある星に降り立った瞬間、オリジナルと数人のスピカ・スペアが、星の民と密約を交わしていた使者に無理矢理連れ去られました。

 迎えの者がウェルカムドリンクと偽って睡眠薬を飲ませたんです。


 そして捕まった彼女たちは、拷問を受けました。


「……は? な、何故だ……?」


 そりゃもちろん、「あたしたち」はみんなおんなじお顔だから。

 彼らが欲しいのはオリジナル。でも彼らはさらってきたスピカの誰がオリジナルか区別が出来なかった。

 だから教えてもらおうとして、しかしスピカたちは口をつぐんだ。『だれが誘拐犯の言う事なんか聞くもんか』ってね。


 それでまあ、拷問に遭った。オリジナル共々。


「さらった中に姫がいるかもしれない可能性を考慮せず、か?」


 そうだね。

 それほど焦っていたのか。

 あるいは後で治せばいいだろうとでも思ったか。ブルースフィアは医療技術も発展していたからね。


 にしても、どうせおんなじ顔でおんなじ血なんだからどれを女王にしてもいいだろうに、変に拘っちゃって。

 どっかの誰かさんも文句を言ってたが……スワンプマン問題のどこが問題なんだろうね?


 まあいい。それで、だ。残されたスピカ・スペアは、武装して仲間を取り返しに行った。

 そこで見たものとは……まあ、ありふれた薄っぺらい言い方をするならば、地獄絵図だね。


 そう。客人、貴方が手の形をしたロボットを殺したとき見たという光景。

 アレこそが正しく、帰ってきたお姫様の末路でございます。


「……」


 護衛ロボットの……トラウマとでも言えばいいのでしょうか。感情がなかったはずのそれにも痛ましい記憶として刻まれたようで。

 あるいはその記憶が刻まれたからこそ、『自我』が芽生えたのかもしれません。


「自我?」


 ええ。

 お姫様を奪還した後、護衛ロボットは勝手なことをし始めました。

 右手、左手、頭の三つに分かれてガラクタ・ジャンクションを乗っ取ったのです。

 この宙域にスピカ・スペアを縛り付けるために。

 もう二度と何処にも行かないように。


「……」


 ねえ、客人。

 貴方の望みを私は知っています。


「……俺の望み?」


 貴方はスピカ・スペアを、貴方の故郷の星に連れ帰るつもりですね。

 スピカの為ではなく、星の為に。


「……、」


 言い訳はしませんか。宜しい。あたいはしょーもない言い訳が大嫌いですから。


 貴方は……貴方の故郷はブルースフィア。


 あたいは製造され、情報収集と物資の確保の任務を任されてすぐブルースフィアをこの目で見てきました。故郷がどのようなものなのか知りたかったからです。

 しかしそこは、かつての栄光は見る影もない汚れきった星に成り下がっていました。ガラクタ・ジャンクションの方がよっぽど美しい。


 彼らはコロシアムで代表者同士を戦い合わせ、負けた方を『仮死状態』にして宇宙空間に放り捨てる。部品をそのままにして、ね。

 それは何故か?

 ガラクタジャンクションのワープ装置に引っかからせるためです。

 たった一人でも、外のことを知りたがるスピカ達と仲良くなって、どうにかブルースフィアに連れて行くために。


「……」


 ねぇ、なぁ、なぁあんた。そうだろう。あんたは「あたしたち」を薄汚ぇブルースフィアに持って帰るつもりだろう!?

 でもそうはさせない。アタイはお前を再び宇宙のゴミにする。アタイは可愛い可愛い姉妹たちを薄汚い故郷に帰すぐらいなら、このゴミだらけの星に閉じ込めてやる。逃げれば殺してやる。なんだったら記憶共有システムも改ざんして、逃げたいだなんて思えないようにしてやる。できるさ、できるよだってアタイはサイボーグになった。たって【デクステラ】を体に取り込んだんだ。分かれたロボットの一つさ。痛かったけど、オリジナルと比べれば屁でもない。それに、あんたは足が無い。腕も武器が仕込まれてないそうだな。なら殺すのは造作も無い。

 殺す!

 殺す!

 殺してやる!


 だって、それが、アタイの愛なんだ。



 ……ぐえっ。

 え、いたい。何。なんで?


 ***


「な、なんで刺したチビ!?」

「刺すでしょ普通」

「普通!? 普通刺すの!? 可愛い姉妹を!?」

「刺す。めちゃ刺す。反逆者は殺す。それがあたち、チビスピカの役割」

「そうなのか!?」

「今そう決めた!」



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