4-4 愛する者を傷つけて
我々の創造主、オリジナル・スピカ。
その本当の名は、【スピカ・アストリア】というんだ。
アストリアとは我々のかつての母星、どこよりも科学の進んだ一等星、【ブルースフィア】という星の王族の名前だ。
何を隠そう、オリジナルスピカはブルースフィア星の可愛い可愛いお姫様だったのさ。
では何故そのお姫様が、自身のクローンを沢山作ることになったのか?
答えは簡単、兄と戦うためだ。
「いや簡単とか言われても分かんないッス、姐さん」
まあまあ聞きたまえメテオくん。
まず初めに、彼女がクローンを作ることになったその時代では、ブルースフィアで二つの勢力が争っていたのだ。
主張はこうだ。兄と妹、どちらがブルースフィアの王として相応しいか。
どうしてそんなもんで争うようになったかって? だって兄は妾の子で、妹は正室の子だったから。
ハハハ! 下半身ユルユルの王様にも困ったもんだ。
ああ、本来だったらお姫様がトップになるはずだったんだけど……兄にも妹にもそれなりのカリスマってのがあった。どちらもいい頭といい性格をお持ちだったので、それぞれを慕う国民が沢山いたんだ。
ま、そのせいでお城の中は毒殺、暗殺、身内の裏切りのごった煮になってしまったんだがね。
ハハハ!
で、だ。荒波に揉まれているそのうちに、お姫様と王子さまは、他人を信用することができなくなっていった……。
彼らはかつては愛していた。慕ってくれる部下を。国民を。星を。
だが、生まれてしまった。母親の違う兄として妹として。だから愛している人々は荒れた。
では、どちらかを消すしか無い。
つーわけで、二人は決闘をすることにした。
「なんか……短絡的じゃないスか?」
うん。そうとも言える。
「要は、その二人はそれほど追い詰められてたってことでしょ」
その通りだチビ。人は味方がいないと、バカをすることがある。
「味方が多くてもバカをするときもある。あたちたちみたいに」
うんまあそういうときもあるよね。はい。
……それで二人は、決闘の日までに強くなることにした。
方法は、そう。
片方は自身の数を増やすことで。
もう片方は自らの肉体を改造することで。
ハハハ! 知性が積み上げてきた技術が戦いの道具になるのは戦争の常だな。残念なことだが。ハハハ!
「……そんで、結末はどうなったっけ?」
ああ、そうそう。
そうして数多のお姫様と、一人の強靭なる王子様の、偉大なる一戦が行われたんだった。
一週間にもおよぶ戦いの末勝利を収めたのは、王子様だった。
兵士の数が多くても武器を沢山積んだ生ける兵器には叶わないということかな。
このとき、王子様は妹にこう言った。「この星から出ていくがいい。貴女のような美しい心を持った人に、この星は相応しくない」、と。
「それって……どういう意味スか?」
んんん……おいおい、そっりゃお前さん。つまりは、王子様は、お姫様が大好きだった、ってことさよ。言わすなよはずかしい。
「ああなるほどー」
分かってなさそうだな。
そうだな……メテオ、お前はどうだい? お前は姉妹たちを愛しているか?
「はい、めちゃ大好きッス!」
ふふふ、素敵な答えだ。
じゃあチビ。お前さんは?
「……うーん、どうだろ。あたち、みんなとちょっと違うもん」
「えー、みんなと違うのはオレも一緒スよ」
「あんたとも違うよ」
「そりゃ性別も身長も違うけど」
「身長のことは言うな!」
「すいません」
ふふふ。
……うーん、そうだな、世の中には様々な愛の形があるんだよ。
「愛する者の為ならば、その愛する者を傷付けても構わない」。そういう、一見矛盾にも思えるような愛の形も、だだっ広いこの世には存在する。
……ともかく、決闘に敗れたお姫様は故郷を去った。この船シュガーホイールとともにね。
シュガーホイールもそうだが、記憶共有システム、クローン製造装置、あとはもろもろの装置とか、護衛ロボットとかも。
設計者はお姫様だ。
「すげ〜〜!」
だろ? 天才なんだよ。天才だったんだ。
あ。ちなみに資金は王子様から出てる。せめてもの手向けさ。お姫様一人で寂しくないように、とね。
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