ARCHEIDEA 〜意識を侵す神ゲーの罠〜

ペコたろう

第1話 この世界が変わった日

Eidolynix Corporation(エイドリニクス・コーポレーション)

その名は、すでに神話にあった。

かつて兵器開発で名を馳せ、次に医療テクノロジーで世界の死者数を劇的に下げ、そして今──人間の意識そのものを「転送」する技術の完成を発表した。


Eidolynixは多国籍かつ分散型の構造を持つ企業であり、世界中の頭脳と莫大な資金が集約される、現代の“錬金術の塔”。

本社はスイス山岳部の地下研究複合施設アナクリオン。日本支社は東京・大手町の地下8階に位置し、開発戦略部門・心理適応研究室が存在する。


そして、この企業が“遊び”に乗り出した時──世界は戦慄した。


――《ARCHEIDEA》発売当日:2055年9月17日(金)

午前0時。世界各地で神経接続装置(SynThread)が点灯する。

リアルタイムで接続されるサーバ数は1万を超え、同時ログインは3000万人を突破。

最初の2時間で、全世界の帯域使用量の28%が《ARCHEIDEA》によって占有され、金融ネットワークや軍事衛星通信に軽度の遅延障害が発生した。

「ネットワーク地震」と呼ばれる異常事態が報告されるも、それすら祝福の火柱のようだった。


SNSはトレンド入りを通り越し、本来の運用に支障をきたすほどの熱量を見せる。

「#創れ、終わらせろ」「#ログアウトは任意である」といったキャッチコピーが、狂信的なまでに拡散されていく。



・・・




神無(かんな)ユウト/17歳/高校中退


彼は静かにヘッドギアを手に取る。

今ではもう遺物になった、姉の部屋から持ち出したそれは、《IDEON》時代のベータ用端末だ。

新品の「SynThread」を手にする余裕などない。彼がこのゲームに飛び込む理由は、娯楽でも希望でもなかった。


机の上には、姉が最後に記したログがある。


『ユウト。ここでは、何もかもが本物だった。あんたの“良心”まで壊れるように設計されてる。』

ログの署名は《No.19》──


「……だったら、俺が証明してやるよ。壊れずに、生きられるってことをな」


そうして、彼はログインする。


《ARCHEIDEA》へ──破滅か、創造か。運命の鍵を手にしたまま。

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