その涙を、君は知らない

第1話 再会



昼下がりの春の教室。

開け放たれた窓から風が吹き込み、カーテンがふわりと舞った。


那美(なみ)は、黒板に書かれた時間割に目をやりながら、ため息をひとつつく。

高校3年生になって、最初の週。クラス替えにも少しずつ慣れはじめた頃だった。


「……同じクラス、じゃなかったね」


小さな声で、ぽつりと。誰に聞かせるでもない独り言。


廊下の向こう側、ちょうど隣のクラスの窓際――

そこに、遥人(はると)の姿が見えた。


風に揺れる髪。無表情な横顔。

何かを考えているようで、何も考えていないような、あの瞳。


思わず目をそらそうとしたのに、できなかった。

鼓動が、すこしだけ痛かった。


「……忘れたつもりだったのに」


わたしはまだ、あなたを見てる。


そう気づいた瞬間、ふいに胸の奥がざわついた。


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