第6話 『“パンツの保管係”は見た! 放課後、揺れる彼女のヒミツ』

 放課後の部室。


 夕陽が差し込むその隅に、淡いピンクの布がぽつんと残されていた。


「……パンツ、だよな……これ」


 俺は固まった。


 教室の掃除当番を終えたあと、忘れ物の確認をしに立ち寄った文芸部の部室。

 そこにいたのは、誰もいないはずの空間と──

 そして一枚のレース付き淡ピンクのパンツだった。


 見覚えがある。いや、なんとなく“ことりっぽい”気がする。


 このパンツを、どう扱えばいい?


 捨てる?

 いや、捨てられるわけがない。

 かといって、持ち帰るのもそれはそれで犯罪臭がする。


(でも……パンツ保管係としては、回収せざるを得ない……)


 俺はそっとそのパンツを拾い、ビニール袋に入れて持ち帰った。

 ただし、ノー匂いチェック。ノー変態ムーブ。完全に紳士ムーブである。


 それから三日。


 ことりは、そのパンツの話を一切してこなかった。


 俺の目をしっかり見てくれるし、普通に話す。

 でも……たまに何かを隠しているような、そんな表情を見せる。


(俺の部屋の「パンツ保管ボックス」には、すでに数枚入っている。

 でも、ことりの“あの一枚”だけは、なぜか入れられずにいた)


 保管じゃない。

 これは……たぶん、“保留”だった。


 そして、放課後。


 彼女を呼び止めた。


「あのさ、ことり……これ、落とし物。たぶん、君のだと思う」


 差し出したビニール袋。

 中には、例のピンクのパンツ。


 ことりは一瞬だけ目を見開き、そして――

 静かに、首を横に振った。


「それ……捨てていいよ。もう、履けないから」


「えっ」


「見られたし……その、わたしの中で、もう“普通のパンツ”じゃないから。

 履いたら、ずっと白井くんの顔思い出しちゃいそうで……やだよ」


 顔を赤らめながら、微笑む彼女。


 そんな表情を見ていたら――俺、言ってしまっていた。


「……あのパンツ、可愛いと思ったよ」


「え……?」


「たぶん、ことりに似合ってるなって……思ってた。

 ……いや、変な意味じゃなくて! なんか、やわらかそうで、ほんのり桜っぽくて……」


 思わず言葉がつっかえる。


 でも――

 ことりは、嬉しそうに目を伏せた。


「……ほんと、バカだね。

 そんなこと言われたら、もっと……履きたくなっちゃうじゃん」


「えっ?」


「……なんでもないっ!」


 そう叫んで、ことりは校舎の外へ駆けていった。


 翌日。

 俺の机の中に、小さな封筒が入っていた。


 中には、新しいパンツが入っている……わけではない。

 代わりに、小瓶に入った柔軟剤サンプルと、メモ。


「“この香り”で、次をお願い。

 履けなくなったら、また洗って返してね。――ことり」


 俺の手元で、ほんのり香る“チェリーブロッサムの香り”。


 それはたぶん、

 彼女が“好き”を自覚した、最初の匂いだった。

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