終末まであと
鏡つかさ
プロローグ
1・死者が迎える朝
瓦礫の山に、かすかな呼吸があった。
黒く焦げた鉄骨。焼け落ちたビルの影。
そこに一人の少年が、崩れた床の上で身を起こした。
左腕がない。血の代わりに、薄く灰色の蒸気が噴き出している。
――それでも、生きていた。
「……ああ、また……死ねなかったのか」
呟きは、誰にも届かない。
世界はすでに、彼を拒絶していた。
視界の端で、少女の小さな死体が目に入る。
その体は、彼の胸元にしがみつくように倒れていた。
少女の手のひらから、名札が滑り落ちる。
“Mi…ka”と震えた字で書かれたそれは、かつてこの都市に生きていた名前だった。
少年は、右手をそっと伸ばす。
だが、触れることはできなかった。
――通信が入る。
《こちら連邦軍第零特区外郭部隊。回収対象“十三号”を発見。》
《生存を確認。命令を実行する――撃て。あれは、もう“人間”じゃない》
銃声が響く。
だが、銃弾は届かない。
少年の右手に刻まれた魔導刻印が、静かに輝きを放った。
「魔導刻印、コード十三……《灰鎖解放》――」
瞬間、空気が震える。
次の瞬間には、世界が音を立てて崩れ始めた。
兵士たちの体が、ひとつ、またひとつと、灰に変わっていく。
瓦礫が浮かび上がり、建物が風に散るように粉砕される。
それは、まるで神の裁きのように。
「誰か……誰でもいい、止めてくれよ……!」
少年は叫んだ。だが、それはただの祈りに過ぎなかった。
彼を止める者など、もはや存在しない。
いや、彼を“止める”べきだった者たちは、すでに皆、灰となった。
――そして。
すべてが終わった後、灰だけが残った都市の中心で、
一人の少年が立ち尽くしていた。
数日後。連邦軍の報告書には、こう記される。
《第零特区、壊滅。原因不明。魔導兵器十三号――行方不明》
その日、世界はまたひとつ、地獄へと沈んだ。
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