第15話 3つのチョコレート

 次の日の午後、スマト大臣の屋敷にタロイとジロイが工房の職人を連れて来ていた。それは新しいチョコレートをスマト大臣に審査をしてもらうためだった。これで優れた方が王様に献上されるということで両工房の職人たちは気合が入っていた。

 タロイとジロイはお互いにあいさつどころか、目を合わそうともせず、スマト大臣の前に進み出た。


「こちらが試作したチョコレートです」


 2人はそれぞれ小さな箱を差し出した。


「うむ。ご苦労であった。それではまずはタロイの方から」


 スマト大臣がタロイの箱を開けると黒いチョコレートが入っていた。それは箱の中で鈍く光を放っていた。


「私はビターチョコレートを作りました。カカオ豆特有の苦みを利かして香ばしく仕上げました。これなら王様にご満足いただけるのでは」


 タロイは自信あり気に言った。スマト大臣はそのチョコレートを口に入れた。


「うまいぞ。確かに苦みを利かした味である」


 スマト大臣はうなずいてそう言った。その言葉にタロイはニヤリと笑った。


「次はジロイのものを・・・」


 スマト大臣はジロイの箱を開けてみた。そこには薄い茶色のチョコレートが入っていた。それは明るい光を放っていた。


「私はミルクチョコレートを作りました。濃厚なクリーミーな味わいがあると思います。私の方が王様の望まれる新しいチョコレートかと存じます」


 ジロイは自信を持って言った。スマト大臣はそのチョコレートを口に入れた。


「うむ。これもうまい。このクリーミーな舌触りは格別である」

「どうでございましょう。私の方が優れているのではございませんか?」


 ジロイがスマト大臣に言った。だがタロイも負けずに行った。


「いえ、ジロイのはただ甘く仕上げただけ。素材を生かした私の方が素晴らしいのではないでしょうか?」

「うむ・・・」


 スマト大臣は考え込んだ。全くタイプの違うチョコレートの優劣をつけることは難しい。タロイのもジロイのも素晴らしいことに間違いないのだが、彼はこの2つのチョコレートのいずれにも何か引っかかるものを感じていた。それは何か・・・。

 その時、家来が部屋に入って来てスマト大臣の耳に入れた。


「大臣様。表にマーサ工房の者が火急の用件で参っておりますが・・・」


 それを聞いてスマト大臣は怪訝な顔をした。


「マーサ工房だと。そこの主人は寝込んでいるということだが」

「そこの代理の者が参りました。マーサ工房の者がとり急ぎ、大臣様のお耳に入れたいことがあると」

「うむ。そうか。まあ、よい。この場で聞こう。ここに連れてまいれ」


 スマト大臣はその者を呼ぶように家来に言った。

 しばらくして白髪で白いひげの老人が小さな箱をもって入ってきた。そのいで立ちは上品で優雅で言い知れぬ威厳を放っていた。


「あのじじいだ!」


 その老人を見てアニーやオットー、そして職人たちも騒ぎ出した。


「何事だ! 大臣様の御前である。静かにせんか!」

「審査の場だぞ!」


 タロイとジロイが自分のところの職人を叱った。だが職人たちは、


「先日喧嘩をしていた時、あいつが俺たちに手荒なことをしたやつの仲間です」

「そうだ。あいつに間違いない!」


 と口々に言った。老人はその声にかまわず、スマト大臣の前に出た。


「これは失礼します。マーサ工房の使いの者です」


 マーサ工房と聞いてタロイとジロイが老人に不審な目を向けた。


(このような者、元々マーサ工房にいなかった。それにうちの職人を痛めつけて・・・一体何者だ?)


 スマト大臣が老人に問うた。


「火急の要件というのは何じゃ?」

「はい。我がマーサ工房の職人が新しいチョコレートを作りました。王様が新しいチョコレートを求めているのをお聞きしまして持って参りました」


 老人が答えた。するとタロイとジロイが声を上げた。


「恐れながら父のマーサ工房にあのような者はいなかったはず」

「職人も残っていないあの工房からチョコレートとはおかしな話でございます」


 その声にスマト大臣はうなずいた。だが老人は言い張った。


「私はただの使いの者でございます。新しく入った職人が素晴らしいチョコレレートを作りましたので、大臣様に味を見ていただきたいと思いまして」


 それを聞いてスマト大臣は首を傾げた。


「それにしても火急の要件とはどうじゃ? 急ぎとは思えぬが」

「いえ、このチョコレートを食べずして、王様に献上するチョコレートが決まってしまえば一大事。それゆえこうして慌ててお持ちしたのでございます」


 老人の答えにタロイやジロイ、そしてその職人たちが目を剥いた。


「我らのチョコレートよりよいものを作ったとでもいうのか!」

「我らが持参したチョコレートはそんじょそこらのものとは違う。工夫を重ね作り上げた物なんだぞ!」


 皆が口々に言ったが、老人はニコニコと微笑を浮かべていた。


「それならば一つ食していただきますかな? 論より証拠と申します」


 老人は持参した箱を前に置き、その蓋を取った。すると中には真っ白な輝きを持つ小さな四角いものが並べられていた。


「なんじゃ? これは」


 見慣れないものにスマト大臣は思わず声を上げた。


「ホワイトチョコレートでございます。世にも珍しく、遠い国で修業した我が工房の職人が苦労して作り上げた物でございます」


 老人はそう答えた。するとタロイとジロイがスマト大臣に言った。


「お止めください。そんなものを口にする必要はありませぬ」

「このような面妖なもの。チョコレートとは言えませぬ」


 だが老人はそれに負けず言い返した。


「それはどうですかな? このお二人には負けぬと思いますが」

「なに!」


 タロイやジロイたちは怒って腰を浮かした。彼らは今にも老人に飛びかかろうとしていた。

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