第13話 真心
次の日からコーディーはリーマーの世話を昼間にして、夜はチョコレート作りに励んだ。そしてやっとできたチョコレートをリーマーのもとに持っていった。
「パパ。チョコレートですよ。食べてみて」
だがリーマーはそれをちらっと見ただけで口に入れようともしなかった。あれほどチョコレートに取り付かれているかのような父であったのに・・・。コーディーはそれから数日間、続けてみたが、やはりリーマーの反応は変わらなかった。
「やはりだめです。私の腕では・・・。」
コーディーは気を落とした。老人はそのチョコレートを口に入れてみた。
「確かにこれはうまい。だがこれだけではお父様の心を動かせないような気がします。お父様の心に届くもの、驚かせて気を向けさせるもの・・・そんなチョコレートが必要でしょう。ところであなたはどこで修業されたのかな?」
「それは・・・」
そう聞かれてコーディーは言葉を濁した。だが老人にはわかっていた。
「隠さなくても分かります。あなたは異世界に行ったのでしょう。話して下さらんか?」
「えっ!」
すべて見抜かれているようでコーディーは驚いた。だが隠しても何もならないと少しずつ話し始めた。
「家を飛び出してメカラス連邦の首都ゼロクロスに行きました。そこなら修業ができるのはないかと・・・。でもダメでした。どの工房も女の職人はいらないと。それにゼロクロスでもこのカーギ国のどの工房より優っているところはなかったのです。私は悲観しました。父と言い争いをしてまで家を飛び出して来たのに・・・」
コーディーはため息をついた。
「そんな時、私は耳にしました。かつてあのハークレイ法師様が異世界に転移し、様々な技術をこの世界にもたらしたことを・・・。その中にはチョコレートの製法もありました。そこでは素晴らしいチョコレートの技術があって、女の私でも修行できるかもしれない・・・。それで異世界に転移する手段を探しました」
「それは思い切ったことを・・・」
「ええ、それは現在では危険だということでご法度だと聞いています。でも私はどうしても修業がしたかった。だからある魔法師に頼み込んで異世界に転移させてもらいました。3年という期限付きで・・・」
「そうだったのですか・・・」
老人はうなずいた。あれほどのチョコレートは異世界で修業すれば作ることは可能だと・・・。
「異世界でいい人に出会えた。そこでチョコレート作りの修業ができた。それも素晴らしくおいしいチョコレート・・・。そこで学んで帰ってきました」
「懸命に修業されたのですな。3年してこの世界に戻り、すぐにここに帰って来たんじゃな」
「父に私の腕を見て欲しかった。職人になるのを認めてほしかった。それが・・・」
コーディーはまた嘆息した。老人は彼女の話を聞いてうなずいた。
「わかりました。あなたには素晴らしいチョコレートを作る技術がある。あとはあなたの真心です。それを映し出すように工夫してチョコレートを作ってはいかがでしょうか?」
老人の言葉にコーディーは考え込んだ。修行して身に着けたチョコレートの技術、その中で父を驚かせるほどのものとは・・・それはやがて一つの結論を得た。
「私の真心をチョコレートに込めよう。それには・・・」
コーディーはまたチョコレートを作り続けた。今度は今までと違った製法で作っていた。それは彼女が修行した中でこれはと思ったチョコレートだった。だが製法が難しく、満足のいくものはなかなかできなかった。作ったチョコレートを食べては、
「これではだめ・・・」
と捨ててはまた作り直していた。それはまた数日に及んだ。疲労と眠気が襲おうとも、彼女はくじけず、それをはね返してチョコレートを作り続けた。
◇
そのころタロイの工房ではようやく試作のチョコレートが完成していた。それは漆黒に輝くチョコレートだった。よい材料を遠方から求め、それを工夫して仕上げたものだった。
「これはうまい!」
「香りと苦みが素晴らしい!」
職人たちからも歓喜の声が上がった。
「タロイ旦那! やりました! これで完成です!」
アニーは自信満々に言った。それにタロイはうなずいた。
「みんな! よくやってくれた。苦みを利かしたビターチョコレートだ。これなら王様に満足していただけよう。見とけよ! ジロイ! 俺のチョコレートを見て慌てるなよ!」
タロイは満足げだった。
◇
一方、ジロイの工房でも新しいチョコレートが完成していた。それは薄い色をしていたが、口に含んだ瞬間、芳醇な香りと甘みが広がった。上等なミルクを惜しげもなくチョコレートにたっぷりと混ぜて工夫を凝らしたものだった。
「うめえ!」
「こんなもの、食べたことねえ!」
それを口に含んだ職人たちは絶賛した。ジロイも満足げだった。
「ミルクチョコレートだ。このクリーミーな舌触りは格別だ。これならタロイに勝てる。俺が一番だということを思い知らせてやる」
「ええ、このチョコレートに勝てるものなんか、ないでしょう!」
「我がジロイ工房の勝ちですね!」
職人たちもかなり自信を持っていた。
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