第5話 僕がオッパイに負ける訳ないだろうが!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「――助けに来たよ」


 ロングソードを投げ、ルナに渡す。


「…………ッ!」


 首を少し傾け、横を通る剣の柄をパシッと掴む。そして周囲から飛び掛かってきた十数体の〈人骨〉を一瞬にして切り裂いた。


 〈剣術スキル〉さえ使用出来れば、こんな有象無象なんて相手にならないのだ。先程まで苦戦を強いられていたのが嘘のような光景だった。


「……何で、ここまで、来てくれたの?」


 ルナは歩きながら疑問を伝える。「いや、私は有り難いんだけど、こんな危険な真似をして……」と、少し補足を加えた。


 嬉しい気持ちは一杯だった。武器を私に来てくれた事に感謝している。だけど、彼女は何の勝機も見出しておらず、トウマを守りながら戦いを切り抜ける自信がなかった。


「…………別に、大した意味はない」


 トウマは目を逸らし、ルナと会話を続ける気は意思を示す。そして固有スキルの一つ〈アイテムボックス〉を使用して、手元に剣を出現させた。


「…………ッ!」


 ルナは驚く。前は使用した姿を見た事がなかった。それに〈アイテムボックス〉は、レアな固有スキルである。


 〈アイテムボックス〉持ちは、荷物持ちとして重宝される。一生安泰のレアスキルだと言われている。


 そして彼の様な手元で物の出し入れが可能なのは、〈アイテムボックス〉の中でも上等なもの。


「…………え」


 ルナは声を漏らす。C級の妖だ。弱くない敵のはずだ。だが周囲に群がる〈人骨〉を、トウマはルナと同等の速度で切り裂いていく。


「…………ッ⁉」


 何が起こっているのか、理解できなかった。前見た時もそうだったが、彼はオーラが微弱なのに、身体能力が高いのだ。


 動きとオーラの量がまるで釣り合っていない。


 そして一週間前より、遥かに強い。別人のような身体能力と〈スキルレベル〉だ。何より身のこなしも洗練されており、明らかに多対一の戦いに慣れている。


 こんな短期間で強くなるなんて、恐らく【ソロ】という命懸け、無謀に近い幻世攻略をしなければ到底不可能。


 幻世の購入は国を通さなければならない。一体どうやって幻世を購入したのか。何処かのギルドに所属しているのか。


 謎が尽きず、ルナは彼に魅せられ目を奪われていた。


「――来たよ」


 呆気に取られるルナに、トウマは言う。遅れて彼女も気づいて、横を見た。


「――――ッ‼」


 ルナは横に飛び、巨大な人骨――〈ガシャドクロ〉が放つ斬撃を躱す。


「…………くッ‼」


 〈封絶〉はオーラを薄皮一枚まで抑え込む性質上、気配を感知する能力が鈍る。その所為で反応が遅れたのだ。


 数百メートル先から放たれた鋭い斬撃。流石はB級。規模も威力も有象無象とは別物。段違いの力だ。


 舞い上がる砂煙。その中で襲い掛かる〈人骨〉の群れ。ルナは〈封絶〉を解く。そして〈制空見〉という技に切り替えた。


 〈制空見〉は周囲の気配を鋭く探知する技だ。オーラの動きが激しくなる性質上、〈封絶〉と併用はできない。


 しかし現状は気配を隠す必要はなく、視界の情報が限られているので〈制空見〉は非常に有効だと言える。


 砂煙の中で数十体の〈人骨〉を斬り捨て、次第に視界は晴れていく。


「はぁ…………」


 思わず彼女は溜息を漏らす。数メートル先まで近づいていた〈ガシャドクロ〉の放つオーラが原因だ。


 ルナはデバフの影響で、D級の上澄み程度まで身体能力が下がっている。トウマも似た様なものだ。


 この状態で固有スキル持ちのB級が、目の前に5体いるのだ。


「…………。トウマ……。ごめん……。勝てる気がしない……」


 彼女の瞳は絶望に染まり、胸中は罪悪感で一杯だった。立ち向かう気力すら湧かない戦力差。もう何をしても駄目だと、彼女は諦めている。


「僕から離れないで」


 トウマは突如、ルナの腕を掴み真っ直ぐ敵を見据える。


「え…………?」


 いきなり腕を触れられ、困惑するルナは顔を真っ赤に染める。ただ腕に触れられただけだというのに、大袈裟な反応だが、自然ともいえる。


 何せ彼女は父親以外の男と喋った経験が殆どない。あっても仕事上の事務的な会話のにである。


 そんな彼女からすれば、少し気になる男に触れられただけでも、かなり狼狽えてしまう様な出来事だ。


「〈闇ノ宮殿〉」


 そう彼が手を前に突き出し、〈詠唱〉した瞬間だった。掌に黒い光が出現し、それを握り潰す。指の隙間から漏れ出る広い光は強くなり、彼は勢いよく手を振るう。


 光の速度。避けられる訳もない。


 それは爆風の様に舞い黒炎と化し、〈ガシャドクロ〉を取り巻きごと呑み込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 洋風の宮殿。建物も道も石造りで、緑も豊か。


 怪しく光る赤紫の空。


 此処は彼の固有スキル〈闇の宮殿〉で開かれた特別な幻世。


「――――どうだ、自分が理不尽を強制される気分は」


 狼狽えて、何が起こっているのか理解できていない妖の群れに、トウマは見下した表情を向ける。


「…………ッ!」


 声の先に妖達は視線を向ける。


 豪華な内装。広い空間。


 階段から降りてくるトウマが少し笑い、「――――ッ」一瞬で妖に迫り、剣を振るう。〈ガシャドクロ〉は狼狽え、防御が遅れ、少し骨にヒビが入った。


「いいね……」


 トウマは不敵な笑みで喜ぶ。背後からの攻撃を、ルナが防ぎ反撃してくれたからだ。状況が理解できなくても、やる事は変わらない。


 彼女は優れた気配感知や霊力操作を駆使し、トウマを援護する。


「…………ッ!」


 〈ガシャドクロ〉は動きが悪く、上手く躱せない。大きい割に俊敏だが、体が重い。それは他の妖も同様だった。


 ――そう、幻世は侵入者に〈デバフ〉を強制するのだ。


 今の〈ガシャドクロ〉達は、C級並み。


 それに対しトウマはデバフを受けておらず、C級の能力を取り戻している。


 つまり殆ど身体能力に差はない。


 加えて――――。


「……遅いぞ」


 トウマの視線の先には、全身鎧の妖――ガウェインが居た。彼は剣を抜き、〈ガシャドクロ〉の群れに迫る。


「アレは此処に住む妖。僕はボスと認識れているけど、アイツからすればルナも侵入者。だから常に僕から離れないで、攻撃されるから」


 剣を〈アイテムボックス〉に戻し、トウマがルナの手を掴んで肩に乗せて引っ張る。「背負ったまま戦う」と彼の言葉に、ルナは抵抗しない。


 彼女はトウマの首に手を回す様にして抱き着いた。ロングソードが彼に当たらない様に気を付けつつ、豊満な胸を押し付ける。


「――――ッ!」


 むぎゅっと潰れるほど押し付けられる胸に、トウマは全くの予想外の感触に頭が真っ白になりつつ、「僕が君の足になる。君が敵を倒すんだ」と、真剣な表情で提案する。


「分かった」


 さっきまでルナもデバフを受け、身体能力は三割下がった状態だった。しかしトウマが霊力を流してくれている今、デバフは解除されている。


 そして彼が足として動いてくれるのなら、後は攻撃のタイミングを合わせるだけ。


 難しい話じゃないと、彼女は提案を受け入れた。


 それから数分後――。


 呆気なく〈ガシャドクロ〉の群れは死に絶えたのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 十数メートルを超える巨大な獣の頭が、真っ二つに斬りされる。


「…………ッ!」


 サギリにとってもギリギリの戦いだった。ルナが抜けた穴は大きく、後衛の負担を下げる様に戦うのは難しい。


 一歩間違えれば、採掘員や荷物持ちで死者が出たかも知れない。


 だが、奇襲してきたボスを倒す事ができた。


 これで扉水が開通し、自由に出入りできる。


 もうルナの入った四角形の扉水を無視して、大人しく帰るしかない。此処で待っていても扉水が閉じてしまうからだ。


 扉水は死んだボスの魂を燃料として、一時的に完成しているだけ。つまり燃料を使い切れば、自然と扉水は閉じてしまうのだ。


 もう時間が残り僅か。ルナとトウマの二人を待っている時間などなかった。急がないと幻世に閉じ込められてしまう。


「…………」


 シズクは自分がルナを追い駆けていたら、採掘員や荷物持ちの半数は死んでいただろうと予想していた。


 軽率な真似をせず、大勢の命を守る事が出来て安堵する。


 だから後悔を念を抱けない。もう自分にはどうしようもなかったと、諦めるしかない。しかし込み上げる悲壮感、自然と目に涙が溜まり、腕で軽く拭う。


 思い出すのは、トウマという少年だ。同じ年でありながら、彼は凄く勇気のある人物だとシズクは判断している。


 何となく彼はわざと扉水に入ったのだと、シズクは察している。もしも彼が扉水に飛び込まなければ、シズクが代わりに武器を持って飛び込んだに違いない。


 自分が軽率な真似をせず済んだのは、トウマという勇気ある少年のおかげなのだ。


「さぁ、帰還だ」


 サギリは言う。安堵する周囲の者達。


 もう無事に帰れるのだと、喜んでいた。


「…………」


 まだルナが帰って来ていないと、シズクは言えなかった。


 流石に其処まで子供じゃない。


 その瞬間――扉水は鼓動を取り戻す。


「「――――ッ」」


 小さな鼓動。それを感じ取ったのはこの場で二人。サギリとシズクだけ。


 まさかこのタイミングで扉水が完成したのかと、二人は予感した。そう扉水が完成すればボスを始め有象無象、大量の妖が飛び出してくるのだ。


 今の疲弊した状態で、そんな事が起きれば絶対に死人が出る。いや、サギリとシズク以外は助からないんだろう。


 ゾッとする気配に二人の緊張感が高まる。だが、どうする事もできない。


「「…………ッ」」


 扉水はドクンと、大きな音を立て、瞬間的に膨れ上がり、その場一帯を呑み込んだ。


「――――ッ!」


 ガラスが割れた様に、パリンと音が響くと同時に扉水は砕ける。


 黒い破片が舞い散る中、その中心にはロングソードを片手に持ったルナと、トウマの姿があった。


「あ……。もうボス倒したんだ……」


 驚いた表情でルナが言う。


「「「――――ッ‼」」」


 突然の出来事。呆気に取られる周囲。


「うっそだろ、おい……」


 サギリは口角を上げつつ、顔が引き攣る。喜び半分、驚愕半分といった様子。


「――――っ!」


 勢いよくシズクがルナに抱き着く。


「と、トウマ……!? マジか、お前……!」


 駆け寄るカンダ。


 それに追随し、ハットリも「ふ、復活演出かよ‼ マジかよ‼ すげぇ‼」と叫ぶ。


 周囲は他人事ながら次第に微笑み、一安心した様子に変わる。


「…………ッ」


 サギリは大きく溜息を吐き、ポロっと涙が流れた。それには自分でも驚き、恥ずかしいから急いで目を擦り、「まさか本当に倒したのか……?」と、平静を装い歩み寄りながら尋ねた。


 疑っている訳ではない。何せ、ルナが飛躍的に成長している。もはやB級の届いているほど、彼女のオーラは増強されていた。


 格上を倒さなければ通常、この様な飛躍的成長は有り得ない。


 戦いの経験からサギリは正確に、五体のB級を一人で倒さなければ得られない成長だと判断している。


「……トウマが剣を届けてくれたおかげです」


 ルナが嘘を吐く。力を隠そうとしているトウマの意思を汲んだのだ。


「…………。まぁ、幻世の広さや環境次第では、有り得る話か……。運のいい奴だ」


 大袈裟に肩を落とし嘆息する。安堵して張り詰めた緊張が切れた所為なのか、どっと疲れが押し寄せてくる。


「……はい。運が良すぎました」


 チラリとルナはトウマを見て目が合う。やめてくれと、目を逸らす彼は二人の親友に抱き着かれて、「ごめんごめん。迂闊だったよ。球体状の扉水とか初めてだったから、どんなもんかなぁって興味出ちゃって……」と苦笑する。


「…………」


 ルナに抱き着きながら、横目でシズクはトウマを見ていた。やはり何があると、何となく彼女は勘づいている。


 しかしこの場で一々指摘はしない。根拠もない上に無粋すぎるからだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夜。中では五時間が経過していたが、外では三十分すら経っていない。


 予定よりずっと早くの帰還だが、幻世の広さは大きく差があるので珍しい話じゃない。


 そしてトウマは不用意に扉水に触れた事、及び感謝と報酬の増額の件、その他色々な話を受けて、解放されたのは真夜中だった。


「…………ッ」


 ガーネットの寮に泊まる事となりトウマは困惑している、隣でルナが寝ている所為で。


「……何で隣で寝てるの?」


 当たり前の様に同じベッドで横になっているルナ。


「いや?」


 顔を向け、いつもの乏しい表情で真っ直ぐ尋ねる。


「別に……。でも、何でかなって……」


 トウマが女が苦手なのだ。前、幻世で過ごした時も、まともに会話できなくて、冷たい態度を取ってしまった。


 でも女が嫌いという訳ではない。普通に肉欲はあるし、彼女だって欲しい。


「……約束したから、寝る時は一緒だって」


 幻世の中で同じテントという話だったが、都合よくルナは無視した。自分でも無理がある言い訳なのは理解している。


 でも、素っ気ないトウマ相手では、これくらいグイグイいかないと駄目だと、女の勘が囁いている。


「…………あの時、話があるって言っていたけど、何か用事でもあった?」


 幻世に入る前のルナは何が尋ねたい様子だったと、トウマは思い出して尋ねた。


「…………」


 黙るルナ。話をして仲良くなりたかっただけなので、特に話題がない。


 誤魔化すかと、いきなり彼女は上体を起こして寝間着を脱ぎ出す。


「は…………?」


 隣で脱ぎ始めたルナに、トウマは困惑。何が起こっているのか、全く理解できない。


「――エッチしたい」


 端的に伝えた。ルナの眼差しは真剣そのもの。というか、普通に本音を口にしただけ。


「………………。ごめん。僕は責任取れないから、そういうのは無理……」


 目立ちたくないトウマは背を向ける。彼女は欲しいが平凡な女が良い。しかしB級のサギリに天才だと言われていたルナが相手なんて、冗談じゃないと忌避する。


「大袈裟。一回エッチしたくらい何でもない。責任なんて取らなくていい。ただ無性に今はエッチがしたい気分ってだけ……」


 何となくいける反応だと、ルナは確信した。そして彼女は自らの大きな胸に、トウマの手を持っていく。


 抵抗されなかった。つまりもうエッチできると、ルナの心臓が高鳴る。


 ドクドクと血流が速くなる感覚を覚えた。むぎゅむぎゅと、トウマの手を胸に何度も押し当てる。すると無意識なのか、意識的なのか、彼は胸を自ら揉み始めた。


 もうエッチし放題だと、ルナは表情には出さず歓喜し、ボーっとした表情でトウマを見下ろす。


 少し涎が垂れている事を、彼女は気にした様子はない。


 気づいていないのかも知れない。


「…………」


 純潔に見えて、こんなビッチだったのかよと、少しショックを受けつつトウマは、ゴクリと固唾を呑む。


 どうせ責任を取るつもりがない相手だ。言わば使い捨て。それならビッチだろうが、処女だろうが、どうでもいいじゃないか。


 少しゲスいが、気持ちが揺れ、そして――――。



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【金髪美少女】に押し倒される!―目立ちたくない【陰陽師】が、オッパイに負ける!― BIBI @bibi777

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