【金髪美少女】に押し倒される!―目立ちたくない【陰陽師】が、オッパイに負ける!―

BIBI

一章 エッチな女の子は嫌いですか?

第1話 働きたくないでござる!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 黒髪の少年――トウマは、妖が起こす災害に巻き込まれた。ビルを壊し、人を襲うあやかしの群れから逃げている途中。


 偶然にも黒い光の裂け目――扉水ひすいを見つける。もう助からないと思っていた状況で他に選択肢が思い浮かばない彼は、その光に飛び込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 扉水の先に通じる異世界――幻世げんせの一週間が経とうと、外では四時間程度だ。


 それ故に救援に期待できず、結果として彼は三ヶ月もの間、幻世で戦う生活を強いられてしまう。


 だが何とか妖を率いるボスを倒した事で、彼はいつもの日常を取り戻したのだ。


「最高の朝だな……」


 朝食を作りながら、独り言を零す。トウマは感動していたのだ、朝日を浴びて穏やかに料理を作る幸せに。


 三日前まで、起きては戦う。寝込みも襲われる。その繰り返しの日々だった。心休まる瞬間が無く、寝る暇も殆どない。


 そんな地獄の様な日々を終えたトウマは、平凡な幸せの尊さを噛み締めている。


 今日から夏休みが終わり、学生として過ごす日々に戻るのだ。


 ――ガチャ。


 玄関の方から音が鳴る。驚きながらも、良く知る気配で誰かは分かった。トウマはドアを見つめ、近づく足音を聞く度に心臓が締め付けられる。


「兄さん。もう決めました。貴方を甘やかす事も今日限りです。これ、契約書です」


 黒髪を腰まで伸ばした少女――チサトは、白い数枚の紙をテーブルに置く。


「え? 何、これ」


 久々に帰ってきた妹に怯えつつ、近づいて紙を手に取る。記載された文章を少し読んで理解した、これが家賃や光熱費の支払い手続きだと。


「もう学園に通う金と生活費は、自分で支払ってくださいね。それじゃあ。私、兄さん何か違って忙しいので」


 そう言ってチサトは踵を返し、ツンとした態度で玄関に向かう。


 今日は休日なのだろう。服装がいつもと違う私服だった。白いブラウスに黒い短パン。シンプルながらも、整った容姿を引き立てている。


「嘘だろ……」


 学生なのに働かないといけない。その事実に吐き気がして、「最悪な朝だな……」とトウマは天井を仰ぎ見た。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「どういう風の吹き回しだ? お前が採掘員になりたいだなんて。働くのは嫌だって日頃言っていたじゃねぇか。やっぱ遊ぶ金が欲しくなったのか?」


 茶髪で見た目がチャラい男――ハットリは、授業終わりに教室の隅で飯を食っていた。


「トウマ、お前は採掘のスキルレベル低いだろ……。残念ながら、無理だ……。低級幻世を漁るギルドでさえ、それなりの採掘スキルが必須なの知っているだろ?」


 黒髪で如何にも秀才といった見た目の男――カンダは、メガネをクイッと持ち上げながら溜息を零す。


「これ……」


 鞄からトウマは青い幻妖石を取り出し、二人に見せる。


幻妖石げんようせき……?」


 カンダは言いながら幻妖石を受け取り、少し持ち上げて色を見た。


「あまり品質が劣化してないな……。まさかお前が採掘したのか?」


 幻妖石はスキルなしに採掘すると、品質が著しく劣化してしまう。スキルレベルが高い程に品質を劣化させず、幻妖石を採掘できるのだ。


 カンダが見た限り、ノーマルな幻妖石とはいえ、殆ど劣化していない。この技量は中級幻世でも通用すると、十分に見て取れた。


「そうなんだよね……。ごめん。嘘吐いてたんだ、働きたくなくて……」


 トウマは自分で作った弁当を食べながら苦笑する。


「お前……! 馬鹿か! これ俺達と同じスキルレベルじゃねぇか! めちゃくちゃ稼げるのに、何隠してんだよ! どんだけ働きたくねぇんだ!」


 血の気が引く様な様子で、ハットリは狼狽えていた。金に汚いからこそ、彼は働かない奴が理解できない。特に楽して稼げる手段がある癖して働かないなんて、もはや恐怖の対象でしかなかった。


「ご、ごめん……。妹が稼いでくれるし、僕はいいかなーって甘えちゃって……」


 ドン引きされているが、トウマは目を逸らし、気まずそうに嘘を吐く。本当は最近身に着けたばかりの力だが、正直に言う訳にもいかなかった。


「トウマ……。お前スキルレベルの上限が全て低いと、ずっと言っていたじゃないか。十年以上付き合いのある俺達に、こんな嘘を吐き続けていただなんて、どうかしているぞ、お前……。つまり、ガキの頃から働かない計画を進めていたって事かよ……」


 カンダはショックを受けていた。まさか勤勉で優しい奴だと思っていた幼馴染が、まさかこんなドラ息子だったなんて、想像すらしなかったのだ。


 トウマは無能を演じ、働かず妹の脛を齧り続けていた。そう思うと、カンダは少し悲しくなっていた。


 友人として、嘘を吐かれ続けていた事にもガッカリしたが、何よりトウマが自堕落な奴だと知って失望してしまう。


「妹は十歳から危険な幻世に潜って、お前を食わせてくれてたんだろ……? さ、流石に申し訳ねぇとか、思わねぇのか……? ドン引きだぞ、おい……」


 いつも不真面目なハットリだが、これには流石に青ざめ、ガタガタと震えていた。自分よりも下の存在が珍しいのだろう。恐怖すら抱いている様子だ。


「いやいやウチの妹ってB級で、めちゃくちゃ稼いでいるんだって……。多分今は年収200億は軽く超えているんじゃないかなぁ……。だったら生活費くらい僕にくれたってよくない……?」


 最低だと分かりつつも、これがトウマの本音である。


 事実として、インフラは幻妖石なしには有り得ないので、国はギルドに手綱を握られた状態だ。


 政府は軍としての役割も陰陽師に任せている以上、高値で魔鉱石を買い取るしかないのが実情。


 そしてA級は日本のギルドには、二人だけ。B級は十人。


 当然だが、ギルド同士で人材の引き抜きは起こる。そこでB級ともなれば年収が200億ですら安すぎる。


「何が200億だよ。適当な事言うな。スポーツ選手かよ。金額がショボすぎだろ。大ギルドは政府を支配しているんだぞ。年収として国から貰う事は殆どないが、必要とあれば十兆くらいなら軽く引き出せる事、お前知らねぇのか?」


 呆れた様子で、カンダがメガネを持ち上げる。彼はC級陰陽師の姉が居て、こういう話には何かと詳しい。


 色々と日頃から事情を聞いているのだろう。やれやれと言った様子で、「トウマは本当に世間知らずだな……。国が毎年どれくらい軍に金を費やすのか。これくらいの教養は身に付けた方が良い」と焼きそばパンを齧る。


「そもそも妹ちゃんが命懸けで稼いでいる金は、お前に関係ねぇだろ? 何を甘えてんだよ、お前。自分で仕事して稼げ。男だろ?」


 至極まともな返しだった、ハットリの口から出た言葉とは思えないほどに。確かに冒険者は死と隣り合わせ。一瞬の油断で死ぬなんて、日常茶飯事な職業だ。


 チサトは決して何のリスクもなく楽に金を得ている訳ではない。


「厳しいなぁ。僕は勉強とゲームで毎日忙しいのに……」


 言いながら飯を食い終わり、トウマは鞄に弁当箱を入れる。そして「まぁ、冗談はさておき、採掘員の仕事を紹介してくれない? もう二人はベテランなんでしょ? どこか職場環境の良いとこ、知っているんじゃないの?」と続けた。


「自分で稼ぐ事に意欲的だな。良い事だ。やっぱり自分で稼いだ金で食う飯の方が旨いからな。勿論、紹介してやる。というか……、俺達のとこに来いよ」


 カンダは提案した、飛び切りの笑顔で。


「おぉいいねぇ。親友三人で同じ職場とか、最高じゃね?」


 ハットリも同意する、飛び切りの笑顔で。


「えっと……、確か二人の職場って確か――」


 長年の付き合いだ。トウマは二人の表情で何か悪い空気を感じ取っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 放課後。車で山頂に運ばれた後、作業着姿の三人は喋りながら歩いていた。何故、最後まで車の移動ではないのか。


 それは黒い光の裂け目――扉水ひすいが、険しい山の中に出現したからだ。


 都合よく人が整備した道にだけ出現する訳もなく、こうやって木々や草を掻き分け、蜘蛛の巣を破りながら山の中を入る事は珍しくない。


 というか寧ろ、これが普通だ。


 何せ扉水は人の気配を避けて出現するので、街の中にある方が極稀だ。救いなのは地中に出現する事が殆どない事だ。


 大気中に漂う霊力。これに反応して扉水ひすいは開く。だから必然、地上に出現するのだ。


「ガーネットは三大ギルドの一つだけあって、報酬が破格! 同じ時間働くなら、ここ以外にねぇって!」


 ハットリは力強く断言する。金、金、金、車の中でもずっと金の話ばかり。金の亡者とはきっと彼の様な人を指すのだろう。


「全くだ。僕も借金を返さないといけない身として、ここほど素晴らしい環境はないと確信している。ガーネットは日本の希望だな」


 眼鏡をクイッと持ち上げながら、作業着のカンダはナチュラルに借金があるとゲロっていた。


 あまりにも自然に言うもので、後ろを二人と同じ格好で歩くトウマが困惑している。


「何を不安そうな顔してんだよ。大丈夫だ! ガーネットは強いから、サクッといつも倒してくれるんだよ! 死んだ奴はあまり見た事ねぇ!」


 何人か見た事あると暗に告げる、ハットリ。それにトウマは青ざめた顔で「あまり見た事ないってことは……」と色々察してしまう。


「確かにガーネットは、後衛が少ない近距離特化のギルドだ。俺達採掘員からしたらやっぱり怖いよな、後衛が少ないのは。でも安心しろ。死んだ奴はあまり見た事ねぇから」


 カンダもハットリと似た様な事を言い始める。トウマは「そ、そりゃあ、報酬が高い訳だよ……」とガタガタ震えていた。


「一々恐れんなよ! 男は度胸だろうが! 無難な道しか選べない豆腐メンタルになったら男はおしめーよ! 気が弱過ぎる! 思考が弱者男性だ! 少しは強くなれよ! 頑張ろうぜ、おい!」


 ハットリは狂っていた。目が濁っている、凄く。何かに取り憑かれたのかと疑ってしまうくらい、気が狂っていた。


「トウマ。リスクを恐れる男はモテねぇぜ? 男って生き物は、圧倒的自信があればモテるもんだ。ガリ勉の俺も今じゃあ女と当たり前の様にデートしまくっているんだぜ? まぁ毎回ハイブランドを買ってあげている所為で、出費が痛んだけどさ……。でもまぁ無理して買わなくていいって遠慮されると、逆に買ってやりたくなるのが男だろ? 前なんて家を買ってあげた所為でさ、ほんと借金地獄だ。首が回んねぇよ、ははは。でもまぁ、幸せな悩みって奴だろうな。あんな可愛い子が俺みたいな奴と付き合ってくれるなんて、夢みたいだぜ」


 普段まともそうに見えていたカンダも、ちゃんと頭がいかれていた。圧倒的自信が有り過ぎて、騙されている事に気づけていない。


「安心しろ、トウマ。ここに居る奴は皆ギャンブル中毒だ。つまり俺達と同じって事」


 黒い光の裂け目――扉水のある場所に辿り着き、ハットリが周囲の採掘員を指差す。いつもの彼からは想像もできない曇りなき笑顔。


 聞こえる事で失礼な事言うなと、トウマは顔を引き攣らせる。


 だが周囲の人達はギャンブル中毒だと言われても気にした様子もなく、パチンコの雑誌を読み耽ってたり、博打の話で盛り上がったりしていた。


「一緒にすんな……」


 血走った目でトウマは憎悪を込めた声で突っ込む。まさかこんな死ぬ危険が付き纏う仕事を回されると思わなかった。


 今すぐ帰りたいと思いながら、彼はガタガタと恐怖で小刻みに震えている。


「若いなぁ、そういう反抗的態度。俺も昔はそうだった。でもいずれ分かる時がくる。汗水垂らして稼いだ金ほど、ギャンブルで使うと脳汁止まらねぇんだ。長い労力が一瞬で水の泡になる感覚が、寧ろ今では快感だ。負けた後、何やってんだと思いながら見る夜空が最高なんだよ。逆に清々しい。明日も仕事頑張ろうって力が湧いてくる」


 カンダは女だけじゃなくギャンブルにも金を費やしている事をゲロっていた。「お前、女とギャンブル、どっちかにしろや……」とトウマは恐怖が混じった目を彼に向ける。


「俺なんて、最近は地下で40円パチンコに入り浸りでよぉ! 毎日借金が50万ずつ増えているんだけど! マジやばくね!? すげぇってもんじゃねぇだろ!? ヤバくねぇ!?」


 脳汁が出過ぎて、脳が解けているのだろうか、何故か自慢げにハットリは借金を語り始めた。


 こうして数十分、ガーネットの団員が来るまで、彼等の話は続く。因みにカンダは彼女と手を繋ぐ段階で止まっているらしい。


 それ以上は、結婚してからだと言われているそうだ。彼は「身持ちの固い彼女を持つと彼氏は苦労するぜ。まぁそういう所も含めて好きなんだがな……。全く……」と何故か誇らしげだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 福岡市に立つ高層ビルの一つ。


「採掘員が、また辞めてしまった……。優秀な荷物持ちの子も来月で一人、脱退が決まっている……。これ詰んでませんか……?」


 最上階の一室。薄い茶髪を腰まで伸ばした女――ハリンは、両袖机に突っ伏していた。書類が散乱し、どうにもギルドの経営が上手くいっていない様子だ。


「…………。まぁ、団長のアンタを含め、他の団員も外国人ばかりだから、偏見を持たれているんでしょうね。陰陽師は十分に金は稼いでいるから、次に求めるのは名誉。印象の悪いギルドに入りたがらないのは、まぁ仕方ないわね……」


 黒髪の美人秘書――サキは気苦労が絶えない。スーツ姿でビシッとした雰囲気があるものの、彼女の表情はくたびれたものが見える。


「まぁ実際……、外国人の集まりみたいなギルドに、インフラを握られたくはありませんよね……。それは事前に理解していました……。でも仕方なかったんです……。たとえ寄せ集めだとしても、韓国と日本で同盟を結ぶ必要があったので……」


 ハリンは韓国を民意を無視して、無理やり日本と協力する道を選んだ。それ故に両国から反感を買う立場であり、名誉を気にする陰陽師はガーネットに寄り付かない。


 仕方がないと割り切りつつも、どうにか打開策を見出さねばならない状況なのも確かである。


「このままだとB級の団員が脱退を始めますよ。彼等は引く手あまたなんですから。とりあえず、深刻な後衛不足の解消を目指しましょう」


 眼鏡をクイッと上に持ち上げ、サキは前向きに話を切り出す。基本的に後衛不足は、荷物持ちと採掘員が死ぬリスクに直結する。


 守って貰う立場の採掘員や荷物持ちからすれば恐ろしい話だ。この点を変えなければ、現状維持が続いていしまうのも当然である。


「引き抜けるほどの金……。ウチに用意できませんよ……。というか、金で引き抜かれる様な人、皆アメリカに行っちゃいましたよ……」


 日本は軍に金を湯水の如く使う方ではない。決して少なくはないが、最低限に留めようというのが、今の三大ギルドの方針だ。


 特にハリンは韓国人であり、日本での立場は弱い。実力は確かな彼女だが、好き勝手に振る舞える訳もないのだ。


「……そもそもウチのギルドは、幻世攻略で無茶し過ぎなんですよ。そんなんだから戦闘狂しか集まらないんです。まぁ金が稼げない事に不満を持つ人が少ないのは、こちらとしては都合が良いですが……、世間からヤバい連中だと誤解されています……」


 普通の大ギルドは国を問わず慎重だ。それ故に戦いを好む者は退屈しやすい。だからガーネットは差別化として、上級幻世の攻略に力を入れている。


 そのおかげで、稼ぎが悪くても他のギルドに団員が流れにくい。良い点であるが、根暗なハリンにとっては、地獄の様な環境だった。


「はぁ……。団員は戦闘狂。採掘員はギャンブル中毒。何ですか……、このとち狂った冒険者ギルドは……」


 ついハリンは落ち込む、自分の仲間達を思い出して。血に飢え、獰猛。まるで獣の様な連中ばかり。少し一緒に居るだけでも酷く疲れるのだ。


「今回入団してくれた子も、大人しい子だと聞いていたんですが……、随分と戦闘狂でしたね……」


 サキは思い出す、ルカという少女を。冷静沈着で大人しいタイプだと聞いていたが、実際は戦いに固執し、早く強くなろうと必死なタイプだった。


 ルカの真剣な眼差しからは頼もしさを感じつつも、焦り様な物をサキは見透かしている。


「昔会った時は、本当に大人しかったんですけど……。一体、彼女に何があったのでしょう……」


 首を傾げ、ハリンは悩む。ルカは知り合いの子で、何度か会う機会があったのだが、その時は戦闘狂という印象を受けなかった。


 ハリンは思う、この最近で彼女に一体何があったのだろうと。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ルナの想い人ってどんな人?」


 白髪をハーフツインテールに結んだ少女――シズクは、少しズレている。この車内に居る他の五人は身動きを重視した格好に対し、彼女の服装はゴテゴテしている。


 黒いゴスロリ系というのか、何だか一人だけ可愛い格好だ。


 ため息交じりに「…………。黒髪で、イケメン」と言う、金髪を腰まで伸ばした少女――ルナは彼女に比べて対極。かなりシンプルな格好だった。


 飾り気のない白シャツに黒い短パン。ストイックな性格の現れだろう。オシャレさの欠片もない。


「面食い?」


 真正面に座っている頬が赤いルナを見て、シズクがコテンと首を傾げる。性格の話をされると思ったら、顔の話をされ、顔には出さないが戸惑っている。


 周囲は「ストレートすぎ……」「すまん。俺、髪黒く染めてくる」「くそ。イケメン度が足りなかったか……」と反応は様々だった。


「面食い……。…………。そうかも知れない……」


 何せルナはコウヤの性格をあまり知らない。何せ、一週間前、自分を守ってくれた彼は黙々と妖を狩っていた。


 幻世で三ヵ月一緒に居たが、殆ど喋らず過ごし、今になってルナは後悔している。


「……というか別に、恋愛感情じゃない。ただ――興味が湧いただけ」


 格好いいとは思ったが、別に恋心という訳ではない。ルナが気になっているのは、コウヤの成長と固有スキルだ。


 通常、レベル上限に達したら、〈カンスト記念〉という現象が起きて固有スキルが発現する。逆に言えば上限に達するまで、陰陽師は固有スキルなしに戦わないといけない。


 だがトウマはレベルが上昇し続けているのに、固有スキルを既に持っていた。そうルナは確信しており、彼に興味を強く持つ。


 どうしても気になるのだ、トウマという存在が何者なのか。


「また会いたい?」


 シズクがコテンと首を傾げる。


「……会いたい」


 一瞬迷ったが、素直にルナは答えた。


 周囲は「「「おおぉ……」」」と声を揃え、どよめく。


 その中に、寝取らだと脳が破壊されている男が二人いたが、ルナが気づく様子はない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 生まれつき人はレベル上限が決まっている。トウマはレベル5という、冒険者の資格すら取れない平凡な数値だった。


 スキルレベルすら、全て上限が低かった。


 しかし上限レベルに達して、トウマは【限界突破】という固有スキルが発現した。


 その能力はシンプルながら協力で、レベルの上限を突破するというもの。その上、真に恐ろしいのは、上限レベルが10ずつ上がるという点である。


 つまり彼は上限レベルに達する度、新たな固有スキルが発現という事。


 こんな強力な力を人に言える訳もない。だからトウマは幼馴染にすら、本当の事を言わず噓を吐いて誤魔化したのだ。


 別に保身の為が主な理由ではない。誰かの口から洩れたら、困るのは周囲の人だ。


 優秀な冒険者ほど身内を狙われる。脅迫だけじゃなく、嫌がらせが目的で、大切な家族が被害を受ける事は珍しくない。


 だから今後強くなるとしても、力は隠そうとトウマは考えていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ホントに安全なの?」


 トウマは不安で震えながら、再度確認する。


「大丈夫だ。今日は日本に十人しか居ないB級陰陽師の一人が付いて来てくれるんだ。安心しろ」


 カンダは眼鏡を押し上げ、明るい笑顔をコウヤに向ける。


「最初は俺もそうだったなぁ。段々慣れてくるもんだぞ、こういうの」


 ハットリは欠伸をしていた。すると――――。


「…………」


 空から十人の陰陽師が振ってきた。


「「…………」」


 ルナとトウマは目が合い、見つめ合う。


 数秒後、トウマは気まずくなって目を逸らした。


「おいおい俺、モテ期きちまったのか? 俺の男らしさに惚れてしまいのは仕方ないが……」とハットリが慌て、「馬鹿言うな。俺に決まってんだろ。ちくしょう、俺には可愛い彼女が既にいるというのに……、何て神様は残酷なんだ……」とカンダは空を仰いでいた。


「…………ッ」


 ルナは突然の再開に心臓の鼓動が早まる。隣のシズクが硬直する彼女を見て察する。「あの人が例の?」と疑問を口にした。


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