【5月号】頭上で回るは観覧車~実験の魔法~

大月クマ

グループデートの結末

 ――ああ、こんにちは。今須いますです。


 入学式の日に魔女に殴られた男、今須阿佐比あさひです。

 あの魔女のおかげで、僕は入学式に間に合わず……えっ? 元々間に合ってなかった? いやいや、そこはスルーでお願いします。


 ともかく、気が付けば保健室の天井を眺めていました。

 そう、あの忌々しい魔女――2年生の落合おちあい先輩によって、僕の華やかであろう高校生活は、スタートから大転倒です。


 そして僕は決意しました。


『魔女一夜いちや被害者の会』を作る!


 会員第1号は僕。

 会長は……まだ僕しかいないので保留。入会希望者は……たぶんいる。たぶん。

 なぜそんな会を作ろうと思ったのか?

 それは、これから話すことを聞けば、あなたも同情してくれるはずです。

 思い起こせば、ゴールデンウィーク初日――。


 ※※※


 僕の友人に太田おおたという奴がいます。人間です。

 どうやって知り合ったか? 僕の後ろの席だった。それだけ。

 友達なんてそんなもんでしょ?

 とにかく、こいつはお喋りで、異種族を含めて誰とでも仲がいい。男女問わず。

 そんな太田が、ゴールデンウィーク初日に異種間交流グループデートを計画しました。

 場所はベタに遊園地。動植物園に併設された小さなやつ。

 高校生にもなって遊園地? と思ったけど、この新ヶ野あがの市にはそこくらいしかない。

 しかも、先手丘せんておかという小高い丘の上にあって、街を一望できる観覧車が有名。


 ただ……

『――すっ、すまない』


 当日、太田から電話。

 謝りまくってるけど、要約すると「腹痛と高熱で動けない」。


 ――え、仮病じゃないよな? 僕に丸投げじゃないよな?


 疑ったけど黙っておいた。

 でも太田が来ないと、女の子と何話せばいいのか分からない!

 不安しかないけど、「申し訳ないから」と行くことにした。

 駅に着くと、女子が二人。

 校則で『外出は制服』と書いてあるけど、守ってるのは一年生だけらしい。

 でも目印には助かる。


「えっと、アマルくんだったけ?」

「イマスです」


 最初に声をかけてきたのは、鵜沼うぬま……名前忘れたけど、人狼族。

 頭にピンと立った耳、スカートの後ろからフカフカの尻尾。

 イヌにしか見えん。


 もう一人は――

「…………こんにちは」

「遅れてすみません。今須です」

「…………予定時刻に間に合うには、前の列車に乗るべきでした。寝癖を直すのに時間が掛かったようですね」


 この子はワンテンポ遅れてしゃべる。

 名前は伏見ふしみ……たぶん。

 見た目は人形みたい。膝も指も球体関節、髪はお姫様カット。


 ――人造人間か!?


 高校にいるってことは同い年? 不死身って噂あるけど、部品交換すればOKらしい。


「で、集まったのはこの3人と……」

「やっぱり、アタシらって嫌われてるんじゃない? そろいもそろって人間以外なんて」


 鵜沼さんの言う通りかも。

 太田もそれが嫌で仮病? でも伏見さんは否定。


「…………太田さんから連絡がありました。病気です。音声解析しましたが、体調不良に間違いありません。ただ――」

「ただ?」

「…………僅かばかり、呪術を検知しました」

「呪術!?」


 この子と話すの疲れる。タイムラグが絶妙に間抜け。


 ――呪術って、人間が使ってたやつじゃ?


 その時は深く考えなかった。


 ※※※


「イマル、あれ乗ろうぜ!」


 鵜沼さんが指差したのは観覧車。

 108メートルとかいうバカでかいやつ。


「何だよ。アタシらとじゃヤなのか? さてはお前、ヴァンパイアのくせに高いとこ苦手なんだろ?」


 はい、その通りです。顔に出てた?

 女子二人と両手に花状態……なのに僕は高所恐怖症。


「……………………ヒトミさん。ヴァンパイアだからって、アニメみたいにコウモリに変身できませんよ」

「そうなの?」


 伏見さん、説明長い!

 鵜沼さん、胸倉掴むな!


「乗ります! 乗りますから!」


 こうして僕はゴンドラへ――。


 ※※※


「申し訳ありません。制限体重オーバーです」


 伏見さん、金属部品多いから重いらしい。

 結局、僕と鵜沼さん二人で乗ることに。


 ――え、これってデートじゃん!?


 ドキドキしてる僕をよそに、ゴンドラが中間を過ぎたあたりで――


「――今須くん」


 急に態度変わった!? 名前もちゃんと言った!?

 顔近い! 太ももに手!? え、何この展開!?


「ヴァンパイアって、乙女の血を吸うんだっけ? 今須くんは血を吸ったことある?」

「いや、そんなことは……」


 説明してる間に、彼女が耳元で――


「そうなんだ……まだ童貞ってことか……」


 ――言うなぁぁぁ!


 次の瞬間――


「ぎゃあああああああああああ!」


 僕の耳が! 血が! 肉片が!

 鵜沼さん、口元に僕の耳の一部がぁぁぁ!


「ヴァンパイアのほうが美味しそうでしょ?」


 ――異種交流、誰が決めたんだよぉぉぉ!


 しかもゴンドラは地上100メートル。出口なし。

 彼女は完全に人狼化。牙! 毛! 制服破れてるし!


 ――精気抜く技で反撃!? やり方忘れたぁぁぁ!


 僕、死ぬ!? お父さんお母さんゴメンナサイ!


 その時――奇跡が起きた。


 ゴンドラの扉が開いて、僕は外へ――


 ――いや、落ちるんかい!


「ぎゃあああああああああああ!」


 最後に見たのは、観覧車と鵜沼さんの笑顔。そして伏見さんの無表情。


 ※※※


 気が付けば自分のベッド。

 太田から電話。


『デートに誘ってた子が一人来れなくなったけど、行く?』


 ――え、何それ!? 僕、行ったよね!? 耳食われたよね!?


 記憶混乱。でも痛みはリアル。

 結局、連休は痛みに耐える日々。


 ※※※


「ゴールデンウィークに何かあった?」


 理化学準備室で、あの魔女――落合一夜先輩がニタニタ。


「いや、特には……」

「そんなことないでしょ?」


 この人、絶対裏で何かしてる。

 話を聞くと、全部この人の仕業。

 太田と組んで異種間交流を企画し、僕らを監視。


 で、ゴンドラ事件で慌てて救出――って、100メートルから落とすな!


「ヴァンパイアって頑丈でしょ?」

「痛みは感じるんですよ!」


 耳を触ると……ある!? 回復力じゃないよな!?


「まさか時間戻した?」

「無理無理。物理法則には勝てません」

「じゃあどうやって?」

「えっと……」


 先輩、もぞもぞ。絶対ヤバいことした顔。


「あれは夢よ。複数人で夢を共有したの」

「夢!? 耳食われたし、100メートル落ちたし、痛みリアルだったけど!?」

「そうそう。味も記憶されてるはず」

「痛みも記憶されてます!」


 先輩、顔色変わった。


「呼び鈴鳴るからじゃあ!」


 ――逃げたぁぁぁ!


 残された僕、頭の中で引っかかる言葉――「味」。


 ゴンドラで鵜沼さんが言った言葉――


「ヴァンパイアのほうが美味しそうでしょ?」


 ――まさかねぇ……。


 でも、その日から僕は視線を感じる。

 鵜沼仁美、人狼族。絶対僕を狙ってる。命を。


 これも全部、あの魔女のせいだ!


『魔女一夜被害者の会』


 会員数を増やして、被害者を守るしかない!



〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る