第8王子は親睦のため和国の姫を迎え入れることになりました

ちより

第1話 引きこもり王子との政略結婚


「和の国と、これまで以上に親睦を深めるためにも、姫を1人迎え入れることとなった」


「そうですか…………」


 ほぼ強制参加で行われる、月に一度の父との食事会。珍しく政治の話をしてきた。


 もうすっかり、そういう話をする相手として見限られていると思っていた為、少し驚きはしたものの、自分には関係のない話だろうと適当に返事をする。


 

 第8王子は他の兄弟に比べ、権力に興味がない。国を引っぱる為には不可欠な、闘争力がそもそもないように見える。


 華やかな場を避け、政治的話にも無関心。剣技や馬術の才があるわけでもなく、浮いた話など噂にすらされたことがない。


 母譲りの美しい顔立ちだというのに、パーティでは周りを警備で固め、近寄る隙を与えず気づけばいつのまにかいなくなる、目立つようで本人の印象は残さない。それが第8王子セシルなのだ。彼の希望はただ一つ、静かに生きたい、なのだ。




 王である父は、末っ子セシルに頭を悩ませていた。王位継承権からほぼ見放されているとはいえ、亡き妻の忘れ形見だ。




 他の兄弟たちは成人の儀の後、与えられた領地に住み、統治する術を磨きながらそれぞれ自立している。領地の統率力が後の王位継承権を決める時に重要な判断基準となるのだ。


 次の継承者が正式に決まれば、家族といえど、ここから出て行かなければならない。それがこの国の決まりだ。




 昔は違った。幼いながらに優秀な子だった。何をするにも兄たちとは比較にならないほどの才があった。遠い昔の、輝いていた頃の眼差しがどうしても忘れられず、またあの頃の生き生きとした我が子を見られるのではと期待してしまうのだ。


 だがセシルは今年成人の儀を終えている。城で外国語を学ぶと言う建前で、まだ手元に置いているが、いつまでも昔の面影を追い求めるわけにもいかない。


 貿易に力を入れ始めたばかりのロザード国において外国語の通訳者はまだ担い手が少ない。なんとか他の貴族に示しがつくよう、異国文化や外国語を学ばさせることで体裁を保っているのだ。幸い、勉学においては他の兄弟たちに比べても劣ってはいない。むしろ、飲み込みが早いようにも見受けられる。


 月に一度、2人だけの食事の場を設け、息子の関心を探っていくのだが、自分から語ることはほとんどなく、質問にもこれといった明確な返事はない。それどころか、心ここにあらず……父との食事の時間すら、面倒だと思っているのだろうか。


「はぁ……」

 セシルに聞こえないよう、小さなため息をつく。



 見合いの話を持ってきても、まったく興味を示さず、無理に話を進めることも出来なかった。



 甘い……我ながら息子には甘すぎる。自分でも分かってはいるのだ。


 ロザード国は一夫多妻制のため、他の兄弟の妻達からは毎度末っ子に甘いと小言を言われている。他の息子たちにも同じだけの関わりをしているかと言われれば、自信がない。だが、セシルを気にかけているからと言っても、後継者となれば別の話だ。王として、それは見定めているつもりだ。



 日を追うごとにセシルは妻の面影を感じさせ、厳しくなれずにいた。そのタイミングで、長年進展のなかった異国との関係に動きが見える。そして、その適任者がセシルだったのだ。


 最後の望み、この話を断れば、もう彼に王位継承者としての資格はない。資格を剥奪し、母方の実家に小さな領地を与え、一生今のような生活を送ることになるのだろう……誰に会うこともなく、誇りも目標もない人生だ。王としての仕事は時に辛い決断も多い、優しいセシルにはその方が良いのかもしれない。


 そんな葛藤を胸に、父として最後の忠告をする。




「そうですか、ではない。和の国では妻が複数人いることは御法度だそうでな。既に他の兄弟たちには妻がいるだろう……和の国とはこれまで距離があった故、貿易においてもあまり関係性の発展はなかった。今回の機会が上手くいけば、交流も盛んになり、お互いにとって利益は大きくなる……だから親睦を深める為にも、お前の妻として迎え入れようと思っているのだが……」


「そうですね」


「っ!?」




 父の長い話に、どうせ自分とは関係のない政治の話だろうと適当に返事をしていただけなのだが、父のただならぬ興奮した様子に気づいた時には、もう遅い。


 初めて息子が結婚の話に返事をした。しかも、国政のことを思ってだ! 興奮気味に喜び、大臣を呼ぶ父に、今更ちゃんと聞いていなかったとは言いにくい。


「あっ……父上、今のは……」



「大臣!! 大臣を呼んでくれ。すぐに、例の話を進めよう……お前も、大人になったのだな……父として、王として嬉しく思うぞ」


 少し涙まじりに話す父に、もう後戻りは出来ないと悟る。



「……………………えぇ」

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