3 砂岩の一族
重い車輪が砂地を進むにつれ、
俺達はカルモンド大砂漠を北上していた。
それでミトンさんからあることを聞いた。
もうあと一月経つと、この道は使えなくなるんだとか。
北から南に向けて強い突風が吹いて砂を巻き上げて大規模な砂嵐が丸一月以上続くそうだ。
砂嵐の中では人間が生きていくことも不可能で生存者はたまたま外縁部にいて逃げたものが数人助かった程度でほとんどが未だに発見すらされていないんだとか。
だからこの砂漠は嵐期に人が入るのを制限しているそうだ。
俺、ミトンさんに助けてもらえなかったら砂の底に…
怖い想像をしてしまう。
「日もてっぺんに来たな。そろそろ着いてもいい頃合いなんだが」
広大に広がる砂漠の果てにゴツゴツとした岩が見え始めた。
ミトンさんに聞くとあれが次に滞在する予定の村で牧畜を生業にするラッタという村なのだそうだ。
砂漠から突き出た岩をくり抜いて家を作って生活しているようだ。
そうして、順調に村の中まで入ると、馬車に村民が集まって、干し肉や塩、衣服などを中心に即売会が始まった。
まぁ、砂漠じゃ塩なんてあまり手に入らないし、塩は必需品だからな。
買い物が一段落すると奥から首から獣の牙を加工して作られた首飾りをして側近らしき人を2人従える初老の男が出てきた。
「ミトン様、いつもありがとうございます。
謝辞が続き、初老の男性の視線が俺に留まる。
「見たことのないお顔ですね。最近商隊に参加なされたのですか?」
俺が答えようとするとミトンさんが先に俺の自己紹介をする。
「ああ、こいつはほんの数日前もっと南で拾ったんだ。」
「お倒れになっていたのですか?」
その視線には訝しみと警戒の色が如実に出ていた。
「悠星という」
「ユウセイ様ですね」
警戒を切らず、初老の男性が自己紹介を始める。
「私はこの地に居を構える"砂岩さがんの一族"の長をやらせていただいております。ローザと申します」
視線をずらすことなく俺を視線を送り続ける。
「砂岩の一族ですか?」
本当に知らないのか?という顔をする。たぶんだいぶ疑っているんだろうな。
「この砂漠の地には多数の氏族が存在しているのです。
「例えば、我ら"
などですかね」
なぜか少しだけ信頼されたような気がした。
村長のが表情がさっきよりも軟らかい気がする。
ほんとに知らないと判断したみたいだ。
その後、夕食を取りに外へ向かっていた旅の願いの皆さんが戻ってきて、引き車いっぱいに大砂貝おおすながいを採ってきた。
見た目は二枚貝でアサリやハマグリみたいな見た見だ。
大砂貝はこの時期に繁殖して砂嵐で子供を遠くに飛ばして生息域を拡大するらしい。
それにしてもでかい。1m弱はありそうだ。
貝と貝の間に腕を挟まれれば両断されるくらいの力があるのだとか。
この世界怖い。なんで死ぬような生き物がそこら辺にいるんだか。
もし、そのまま放置されてたら多分もう野垂れ死んでる。別に格闘技習ってたわけでもない純文系だから仕方ない。
大砂貝の味は意外と濃かった。
アサリと牡蠣のいいとこ取りをしたような味で臭みもセットだ。
牡蠣のようなクリーミーさの中にアサリのような旨味が点在する。
俺は結構好きかもしれない。
それと、驚いたことがある。
この村の人は一口目を捨てている。
俺が難しい顔をしていたのか村長さんがこう話し始めた。
「私たち大地に生きる氏族は一口目を地母神へと返礼し食べる許可を得て、それを糧とするのです」そうはっきりと通った声で話した。
一口目を捨てる風習か。
宗教学とか敵にも間違ったことではない。イスラムやヒンドゥーの豚や牛を食わないことと同じ儀式のようなものなのだろう。
「そうなんですね」
「ええ、おわかりいただけましたかな?決して、食べ物を粗末にしているわけでははないのです」
切実な声で言われた。
「わかりました、そういう風習だったんですね」
そういった瞬間、里長の顔に驚きが浮かぶ。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。それでも粗末にしてはいけないと言う外から来たものは多いのです」
「なるほど、まぁ、それぞれに信仰するものや大切にしたいものなんていくらでもありますから」
多様性。日本でも受け入れがあまり進まないんだ。こういう実力主義の世界…弱肉強食の世界じゃ尚更"出る杭は打たれる"んだろうな。
そうして、夜が来た。
俺とミトンさん、デグンくんは客用の部屋で寝ている。
久しぶりの布団だ。
日本のベットと比べようもないけれど、今日はぐっすり寝れるかもと、そのまま俺は意識を手放した。
次の日、ミトンさんにこう言われた。
「お前は此処に残ってもいいぞ」と、歯切れが悪そうに言う。
「どうしてですか?」
「俺等について来ても得るものはねぇぞ。ここで生活基盤を整えるのもアリなんじゃねぇかと思ってな。別についてくるなとは思ってねぇからな!」
そう。俺はこの世界に来て初めての選択を迫られた。
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