VVB(Virtual・Venus・Baseball)、Vtuberと女子野球が=になった世界で
生獣(ナマ・ケモノ)
第1話 Virtual・Venus・Baseball
「練習終わり! 身体休めとけよー。あとシャワー」
「「あざっした!」」
「ふぃー……」
「由香」
「ん? どしたアヤ」
「今日8時。忘れてないわよね?」
「おー、へーきへーき」
「じゃ、後で」
「んー、後で」
※※※※※
「ふいーっと……アヤー、音量どう?」
『問題なし。マイクの調子は?』
「大丈夫」
『そう。じゃあ、始めましょう』
「おー」
『3……2……1……スタート』
始まった。よし……!
「いえーい!」
『わー』
「ボク達ー……せーの」
『「華月学園野球部でーすっ!」』
「どもどもー、華月学園野球部所属の、陽向 火夏(ひなた ひな)でーす!」
『こんばんは。華月学園野球部所属、涼宮 冷(すずみや れい)です』
『「よろしくお願いしまーす!」』
私の名前は松峯 由香……兼、日向 火夏。
華月学園野球部員にしてVTuber。
そして一緒に配信しているのは幼馴染である安藤 綾音……兼、涼宮 冷。
アヤもまた華月学園の野球部員だ。
女子野球とVTuberを融合させた女子プロ野球リーグ、Virtual・Venus・Baseball……通称VVBの誕生から今年で100周年。
今や女子野球とVtuberは=の存在となった。
50以上のチームと9つのリーグが存在し、公式サイトの有料登録者数が世界No. 1となって久しいBIGコンテンツ。
発足当初は2チームしかなく、賛否両論だったそうだけど……参入ハードルの低さから次々と企業が参入した。
何しろNPBだと加盟金だけで何十億と取られる上に基本的に赤字経営だ。
だけどVVBは違う。
加盟金はNPB程じゃないし、何より選手との契約内容が違う。
NPBは年俸制度が主だけど、VVBが主に選手に提示するのは『収益の取り分』。
チームという“事務所”の支援を受けながら配信や案件、メディア出演……そして試合中の投げ銭等で収益を得て、その何割かをチームに渡す。
NPBでは選手に金を払うのに対し、VVBでは選手が稼いだお金の一部を受け取る。
つまりは野球チームと言いつつも、実態はVVBというBIGイベントに参加する権利を持つVtuber事務所って言った方が正しい。
「いやー、にしても何回目のコラボだよ! ホント冷ったらボクの事好きだよなー」
『別に……バッテリーを組んでるから一緒になる機会が多いだけよ』
「なんだとーこのツンデレめ! ボクはこんなに冷の事愛してるのに……
好き好きチュッチュッ愛してる! 冷はボクの嫁っ!」
『貴女の嫁になったつもりは無いわ』
《ツンデレキターーー!》
《ひなれいてぇてぇ……》
よしよし、リスナーの反応も上々。
今の時代、有力選手はアマチュアの段階からVTuberの名前と身体を与えられて配信業も熟す。
基本的にVtuberの活動が出来るのはレギュラーだけだけど、私とアヤみたいな特待生は最初からVtuberの身体が与えられる。
私は日向 火夏として試合に出るし、日向 火夏としてプロ志望届けを出し、指名されたらプロ野球人生を日向 火夏として生きていく事になる。
そして、プロの方も野球のセンスだけではなく配信内容も見る時代だ。
配信に積極的か、ファンはどれぐらい付いているか、SNSでどれ程フォロワーが居るのか。
チームカラーに反した配信をしていないか、炎上はしていないか、他選手との関係は良好か……等々。
今アヤとやった百合営業も戦略の一つ。
もし『ひなれい』のカップリングがファンの琴線に触れて、話題になったりファンアートが描かれれば更に人気と知名度のアップに繋がる。
特に私とアヤは幼馴染で同じ学園の特待生で投手と捕手のバッテリー……という美味しい属性てんこ盛りだ。利用しない手は無い。
アヤもそれを分かってるから乗ってくれている。
『まったく。リードするのは私の役目だけど、貴女も配球についてもっと勉強しなさい』
「えー? ボクは冷のリード信用してるから別に良いってば」
『何時までもこのバッテリーを続けられる訳じゃないでしょ?』
「やだー! ボクの女房は冷しか居ないよ! 離れ離れになっても絶対迎えにいくもん!」
『FAするって事? そんな選手を取ってくれるチームがあれば良いわね。
いや、そもそも勉学を怠る奴がFA取れるまで試合に出られないか』
「うわーん! リスナー、冷がイジメるよー!!」
『リスナーに泣き付かないの』
《言い負かされてて草》
《野球は上手いのにゲームも口喧嘩も弱いね……》
《この前もベラ様にボロ負けしてたしなw》
「ベ、ベラとのアレは……負けてないしっ!
野球じゃ勝ってるから華を持たせてやっただけだし……!」
『……ねぇ、ベラって誰? 聖ミレア学園のベラドンナの事?』
「え、うん……」
『コラボしたの? 私何も聞いてないんだけど??』
「い、いや! 別に態々言う程の事じゃ……!」
『へぇ、そんな仲が良いんだ?』
「や、違くて……」
『私に飽きちゃった?』
「いや、だからそうじゃな……」
『そうよね。ベラドンナは凄い選手だものね。
同じチームになれば、きっと火夏が投げる日も沢山打って助けてくれるもの』
「だから! ボクの嫁は冷だけだって! ベラはあくまでライバルっ!!」
『……ふん』
《嫉妬キターーー!!》
《冷は重い女……》
《でも火夏ってまだコラボする予定あったような……》
「ちょ、余計な事言うなリスナー!」
『何? まだ粉かけてる女が居るの?』
「い、いや、ゆら先輩とネリアちゃんだよ! 同じ部活の先輩後輩と遊ぶだけだって!」
『ふーん……』
《まだ手を出してる女が居たのか……》
《ひな子が悪いんだよ……》
《いつかマジで刺されるぞ》
「ぐうぅぅぅ……」
……実際の所、学校の方針にも拠るけど基本的にはコラボは推奨されている。
と言うのも、関係性を構築しておくに越した事は無い……という程度の理由だけど。
球団としては選手同士の関係性が深かったり多かったりすれば商業展開がし易い。
同じチームになればコンビ売りでグッズ収入が見込める。
違うチームなら試合した時に宿命の対決を演出出来る。
そして選手としては、それだけ多くのコラボをしていると言う事は交友関係が広い、コミュ力があるというアピールにもなる。
だからこれはアヤとも暗黙の了解で、アヤの嫉妬も演技なんだ。
最初は百合営業に消極的だったのに……重い女ムーブも板に付いてきたもんだ。
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