第30話

 食事を終え、台所の洗い物を済ませて、テーブルに戻ると、フィオナがヴァラと楽しそうに遊んでいた。


「う、打ち解けてる。あのフィオナが……」

「いや、そこ、ショック受けるとこじゃないでしょう」


 驚愕した表情のエルナに、カテルナが鋭くツッコミを入れる。

 フィオナはヴァラの背に乗っかり、首に抱きついて、キャッキャッと喜んでいる。先ほどのやり取りで、警戒を解く、どころか完全に気に入ってしまったようだ。そんな姿を見てカテルナが、フィオナに声をかける。


「フィオナちゃん、楽しい?」

「……」


 ヴァラの身体で隠れるように向こう側に引っ込む。カテルナの口元がヒクヒクする。


「な、なんなのかなぁ? あれは」

「自業自得だな」


 ヴァラが普段と変わらぬ声で言った。エルナもコクコクと同意する。


「あ、そうだ。カテルナさん」


 思い出したように、エルナがカテルナに声をかけた。


「あのさぁ、エルナ。そろそろカテルナさんはやめない?」

「――え、えっと……」


 虚を突かれて、思わずエルナは言葉に詰まる。


「敬語をやめろとまでは言わないから、さん付けはやめようよ。なんだか堅苦しい」

「――あ、はい。わかりました。カ、カテルナ……ちゃん」


 呼び捨てにしようとして、やっぱり無理だったのか、エルナは明らかに『ちゃん』を付け加えた。


「『ちゃん付け』かぁ。新鮮でいいわね。それ採用。ついでにヴァラも『ちゃん付け』でよろしく」

「は、はい」


 にっこり笑うカテルナにつられるようにエルナは返事をしていた。ヴァラは別段つっこむつもりもないのだろう、黙ったままだった。


「話の腰折って悪いね。で、さっき何言おうとしたの?」

「あ、えっと、帰りに言ってたことなんだけど……」


 エルナの言葉に、カテルナは首をかしげ、眉を寄せた。そして思い至ったのか、ポン、と一つ手を叩いて、


「身体診るって話?」


 と、逆に聞き返した。エルナは小さく頷いて答える。カテルナは少し両手を組んで考え込むように、うーん、と唸った。


「それだけどさ、やっぱり明日にしてもらえないかな?」

「明日? 別にいいですけど……。今日じゃダメなんですか?」


 カテルナはにやりと笑って答えた。


「うん。明日、放課後にでもちょっと会ってほしい人がいるんだ。――あの子ならエルナが魔法を使えないわけがわかるかもしれない」

「――あの子って?」


 少し不安げな、エルナに、カテルナは不敵な笑みを浮かべて答えた。


「私の……姉さんだよ」

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