憧れの人たちとー。次々に訪れる、幸運の知らせ
青く晴れ渡った空。咲き誇るひまわり。
降り注ぐ、フラワーシャワー。
チャペルを取り囲むように立つ人々。
そして、チャペルにはゆずと海が立っていた。
「ブーケトス、いきまーす!」
少し涙ぐみながら、海が背中を向ける。
彼女が持っていたブーケは、緩やかに弧を描いて落ちていく。
それは、ポスっとミアの手に落ちていった。
「………え?」
キョトンとしているミアとは対照的に、沙樹の顔は赤く染まっている。
「沙樹くん、顔真っ赤だー」
「………うるせ」
からかうように言うと、そばにやって来たゆずが、沙樹の肩を叩く。
「頑張れよ」
「……はい」
相変わらず顔が赤いままの沙樹を笑っていると、手の中のスマホが振動した。
「モカの?」
「うん。電話かも」
「ここで出なよ」
「いいんですか?」
「もちろん」
モカは新郎新婦に頭を下げて、電話に出た。
「はい、花野です。……え?はい、はい。………え?本当ですか?ありがとうございます!」
電話をおいて、スマホをカバンにしまい込む。
様子を見ていたゆずたちは、不思議そうに首を傾げた。
「何だった?」
「………この間の、小説コンテスト結果」
「え!?もしかして?」
「………受賞、しました」
目を見開いたまま、モカが言う。
ミアと海は嬉しそうに笑って、モカを抱きしめてくれた。
「おめでとう!よかったね」
「やったね、モカちゃん!!」
ギュウッと2人に抱きしめられて、本当に現実なのだと思い知らされる。
(………やっと、叶ったんだ……これで、私もー……)
ポロッと、涙がひと粒溢れた。
気づいたミアが、そっと拭ってくれる。
「ーじゃあ今日は、ダブルでお祝いしなきゃだな」
いつの間にか料理を取っていた沙樹がニコニコと笑う。
彼の隣で優も、やはり食べ物を持っていた。
ゆっくりとモカに近づいて、料理の乗った皿を渡してくれる。
「受賞おめでとう、モカ」
「ありがとう……優」
皿を受け取り、目尻を拭う。
ミアに手を引かれながら、近くの木陰にあったテーブルに付き、皆で談笑しながら料理を食べる。
「今回のコンテストって、最優秀賞はどんな特典があるんだっけ?」
「投稿サイトで注目作品として取り上げられるみたいです」
「そうなんだ!いつから?」
「多分、来週だと思います」
「絶対読むね!レビューも付けるから」
「私も」
「えええ、そんなに期待されると困ります」
モカはジュースを飲みながら、視線を下げた。
「それにしても高校生で受賞するなんて、すごいなモカちゃん」
「ありがとうございます」
ゆずが感心したように、モカを見ている。
正直、コンテストに受賞したことはモカが1番驚いていた。
高校2年になってから、本格的に小説を書き始めたからだろうか。
(部活でも、褒められることが増えたんだよね)
先生たちからも、学級だよりや図書室の掲示に小説を書いてほしいと頼まれることが増えてきた。
それだけ、モカの作品が多くの人にとって優れているということだろうか。
(もしそうなら、ミアさんのおかげだ)
中学3年の時に彼女と出会い、彼女の小説に憧れていた。
追いつくために、ずっと追いかけて来た。
それが今日、叶ったのだ。追いついたのだ。
ニコニコしていると、優に肩を叩かれた。
「そろそろ、帰ろうか。おばさんが迎えに来てるって」
「えっ、もう?……あ、4時半か」
がたっと席を立ち、カバンを取り上げる。
ついさっきお昼を食べていたはずなのに、いつの間に時間が過ぎたのだろう。
(本当、速いな)
夏休みでよかったと思いながら、優の後についていく。
「モカちゃん!また会おうね」
「はい!」
ニコニコと手を振るミアたちに笑い返して、母の待つ駐車場へと急いだ。
海とゆずの結婚式から1週間が経ち、モカの書いた小説が投稿サイトのおすすめに表示された。
「あ、出てる」
「もう読んだぞ。すごくよかった」
「え?もう?早くない?」
「たまたまだよ。特にラストのヒロインのセリフがすごくよかったな」
「でしょ?私もそこ好きなの。はーちゃん褒めてくれたんだ」
「よかったじゃん!…葉月とは、どうなったんだ?」
「付き合ったよ。もうすぐ1ヶ月」
「おめでとう!よかったな」
「うん!」
小説のレビューを見ながら、モカは口元を緩める。
夏河葉月。モカの彼女だ。
「葉月もレビューくれてる!」
最新のレビューの中に、「夏みかん」と書かれたアカウントを見つけた。
葉月は小説を書くより、読むのが好きだと言っていたけれどモカが小説を書いていると知って、こうしてアカウントを作って彼女自身も書いてくれるようになった。
『ねえ!モカ。今度の部活で、合作書こうよ。私モカと小説書きたいな』
夏休みに入る前、彼女は目を輝かせながらそう言った。
夏休みに入ってからはお互いに小説を書きながら、構想を練っていた。
(早く、2人で書きたいなぁ)
レビューを眺めていると、手の中のスマホが振動した。
画面上部に、葉月の名前が表示されている。
「はーちゃん!もしもし?」
「モカー!新作読んだよ!すっごくよかった!感動したよ〜特に、告白のシーンとか!」
葉月が怒涛の勢いで小説の感想をくれる。
モカは嬉しさに、頰が緩むのを感じた。
「……ありがとう、はーちゃん。ね、明日空いてる?」
「空いてるよー、どこか行く?」
「うん。デートしようよ。それと、小説書こう」
「いいよ!楽しみにしてる!」
葉月との電話を切り、天井を見上げた。
ー幸せだなぁ。いいのかな、こんなに幸せで。
何だか最近は、いいことばかりな気がする。
「……………モカ」
「うん?」
「俺、彼女できた」
「えっ!?いつ!?どんな人!?可愛い??」
ガバッと立ち上がり、優の肩を掴む。
彼は少し身を引いてミアの手を押さえた。
「お、落ち着けって。夏休みに入る前、告白されたんだよ。ずっと好きだったんだ。同い年で黒髪ショートの明るい子」
「夏休み前って、1ヶ月くらい経つじゃん!!黒髪ショートって、ここちゃん?」
「……そう、ココ。……って、何でわかるの?」
「仲良いからね。そっかー、ここちゃんか。あの子可愛いもんね。皆にいいことが起こってるんだね、だからこんなにー」
「ん?」
ー幸せだと思うんだ。
その言葉は、優に伝える前に喉から下がっていった。
「優」
「?」
「これからも、楽しいこと、いっぱい見つけようね」
「……当たり前だろ」
モカの言葉に優が笑った。
エアコンの効いた涼しい部屋で、モカと優は笑い合う。
ー幸運の幸せが、尽きませんように。
揺れる思い、願いと理想 冬雫 @Aknya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます