火星ダンジョン英雄譚 ー英雄だったおっさん、全人類に魔王と呼ばれ討伐対象にされるー
八夢詩斗
プロローグライク
序章 「魔王降臨」
「こちら火星ダンジョン第八探索部隊! 緊急事態発生! 繰り返す! 緊急事態発生! 作戦本部、応答せよ!」
なんで……俺の人生はこんなはずじゃなかった。俺はただ、英雄になって、金をたんまり稼いで(火星だけに)……いや、シリアスなシーンでふざけるのは良そう。俺は生きて家族と会いたかっただけなんだ。本当にそれだけ。
「低層フロアに未知のモンスター発見! 人型だ! 各自、発砲せよ!」
「違う! 俺は人間だ!」
土で囲まれた狭い通路内に、アサルトライフルから銃弾の雨が降り注いだ。俺の身体をハチの巣にしようと迫ってくる銃弾の群れ……俺は声を張り上げて力を解放した。
「やめろおおおお! 俺だ! 分からないのかッ!」
自分の身体が深紅の結晶に包まれていく。かつての仲間に向けられたその声は発砲音にかき消されて届くことはなかった。あの2人はいないのか……。でも、もし声が届いたとしても無駄だったかもしれない。もう俺は人ではないのだから。
「銃弾が効かない!? 対象は肉体を結晶化するようです! しかも言葉を解しているかもしれません! おい! グレネートランチャーと手榴弾で応戦しろ!」
リーダーの金髪男は本部への通信と隊への指示を器用に行っていた。そして、指示通り俺のもとに大量の爆発物が投げ込まれる。クソッタレ。あれは流石にまずいかもな。
「
俺は中二病心全開で名付けた魔法のような力を発動した。前方の地面からは黒い結晶の壁が生成され、爆風はこちらに届かない。
「何だあの力は! だめだ、撤退する! 全員牽制射撃を続けつつ後退せよ!」
彼らはそのままダンジョンを去っていった。俺は追いかける気力もない。元々戦う意志すらないのだ。俺はただ地球に帰りたかった。妻と娘にもう一度会いたかった。そのために死ぬ気でこの魔窟の奥地から這い上がってきたのに……。
「なんでだよ! 俺は、俺はァ……!」
繰り返す後悔の思考に涙がこぼれてきた。みっともない。そう思いつつも嗚咽は抑えきれない。真っ赤な涙が半結晶化した頬を伝った。もう俺は、涙すら人間じゃないのか――。
俺はまだ知らなかった。この映像が全世界に配信されていたことを。そして、俺が”魔王”と呼ばれる存在になったことを。
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