第2話 洞窟をくぐると、そこはダンジョンだった
「よし、ここだ! そして、右に曲がって、そう! そこの影に隙間があった、これだ! ここで、その盾で蓋をしておけばゴブリンとかいう奴らも入ってこれないだろう」
アガサの先導に従う。
「よく、覚えてましたね、アガサ殿。誠に頭脳明晰で助かります。先ほどの”火炎放射器”ですか……? 見たこともないような兵器ですが、どういう国で作られたものでしょうか?」
ジャンヌはそう聞いた。
俺はなんとなく不味い事が起きる予感があった。
「いや、ジャンヌ・ダルクか…‥まさか、本当にホンモノ? ただその高潔な騎士道精神はモノマネで出来るものでもないし、物凄い剣の腕だ…」
「ホンモノ、とはどういう事です?」
ジャンヌは少しむっとしているようだ。
「私は大天使ミカエル、アレクサンドリアのカトリナに導かれた、神の使徒なんですよ!」
「ううむ、もちろんだ。いやはや・・・ええとこの火炎放射器だが、これは即席でね。『贈り物』に整髪剤入りのスプレー缶があったので、後は必死で火起こししてなんとか作ってみたのだよ」
「物凄い! 魔法のような……! いや、魔女と言っているんではありませんよ……
もちろん、魔女なんてそんな失礼なことはいいません」
ジャンヌ・ダルクは最期、魔女裁判にかけられ、火あぶりになって非業の死を遂げた。オルレアンの英雄も、政治闘争には勝てなかったのだ。
「いやあ、魔法が使えるなら使ってみたいよ、ジャンヌくん」
アガサはかなりあっけらかんとした性格のようだ。
「で、本当の火炎放射器が兵器として作られたのは、確かドイツ軍によるものだったな、イギリスを攻める時に初めて実戦で使用されたものでね」
「イギリス?」
「私の国をドイツ人が攻めてくる時に使用したらしい、本来はもっと大型で人間を数人まとめて丸焼きにして葬るような兵器だ」
「なんという残酷な! ドイツ軍はいつもそうです、口では堂々とした事を言いながら、平然と後ろから背中を刺してくるような武人ばかり!」
「いや、そうかねジャンヌくん」
「ええ、アガサ殿・・・ところで失礼ですが、イギリスというのは何処の国でしょうか? 見た所、アガサ殿は貴族階級の研究者か何かだと思いますが、あいにく私は平民出で無学なもので、国の名前が分からず申し訳ないです」
俺の脳の危険シグナルが、最大限に達している。
「ああ、イギリスには成って無かったね。ジャンヌ君の時代でのイングランドの…
うわあっ!?」
ジャンヌは長剣の切っ先を、アガサの喉元に突きつけた。
「貴様! イングランド軍人か!! 市民のいるオルレアンを包囲し、どれだけの犠牲者を出したと思うのだ! 今、神の鉄槌を下して……」
俺はなんとか間に入って
「待って! ジャンヌさん! その……アガサさんはそうじゃない、軍人じゃないんです!」
「その火炎放射器が軍人である動かぬ証拠です! リョウヤさんはどいてください!」
「ううむう、なんというか。ジャンヌくん、そしてリョウヤ……これ、ひょっとして……まさかと思うんだが」
「そう! 僕もそう思ってたんです! さっきの沖田総司も、あの身のこなし……間違いなく本物の天然理心流の沖田! ホンモノ!」
ジャンヌは、
「何をさっきからホンモノだのと言っているんです……?」
怪訝な表情だ。
「落ち着いて、怒らないで聞いてくれ、ジャンヌさん……その……」
「もちろん勇敢な武人であるリョウヤさんの台詞です、怒ることはないですよ」
ジャンヌは表情を和らげて微笑した。
「ええ……実は、僕とアガサさんは……ジャンヌさんの時代よりも数百年先の未来の人間なんです! 英雄ジャンヌ・ダルクはどの国でも教科書に載っているので、初めから知っていたんです! あの剣客の沖田もかなり前の時代の人間で特徴とかを知っていたから、どうにか対応できたんですよ。ね? そうでなければ、あんな天才剣士、僕なんかじゃ瞬殺でしたから」
僕は穏やかに微笑みながら、ジャンヌに笑いかけ、アガサを見た。
アガサは、少し後ずさりして、まるで逃げる直前のような姿勢だ。
ジャンヌは微笑みを、一瞬で怒髪天に変え、
「ふざけるなあっ、そんな夢物語を信じる馬鹿がどこにいる!? 神でも時空を超えるのは不可能だ! 見損なったぞ、リョウヤ!」
長剣の切っ先を今度は俺に向けてきた。
「いや、本当だって! アガサさん・・・?」
アガサは背中を向けて、
「中国の兵法だったな、36計逃げるに如かずだ!」
猛スピードで駆けだしていった!
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