第81話:バーチャル喫茶・春風で、新しい春風を咲かせに。

昼下がりの喫茶春風。


私は、カウンター席で、

そっと温かいハーブティーを飲みながら、みんなを見渡していた。


あかりちゃん、花音ちゃん、ユウくん、ハルノさん。

いつもの、あたたかな顔ぶれ。


でも今日は、

少しだけ、胸の奥がそわそわしていた。


私は、深呼吸をひとつして、

みんなに向かって言った。


「……みんなに、伝えたいことがあるの」


あかりちゃんが、ぱたぱたと顔を上げる。


「な、なんですかっ?」


花音ちゃんも、

手帳を抱えながら、じっと私を見つめた。


ユウくんは、

カフェオレを置きながら、静かに耳を傾けた。


ハルノさんは、

コーヒーカップを磨きながら、そっと頷いた。


私は、胸いっぱいに吸いこんだ空気を吐き出して、

笑顔で伝えた。


「私、ラジオパーソナリティになる夢を、本気で目指したい。

 だから、ラジオに特化した喫茶店に、修行に行こうと思うんだ」


しん……と、一瞬だけ静まりかえる。


でも、すぐに、

あかりちゃんがぱあっと顔を輝かせた。


「すごいですっ! りるむちゃん、ぜったい応援しますっ!!」


花音ちゃんも、目を潤ませながら、笑った。


「さみしいけど……っ、

 でも、りるむちゃんの春風が、もっともっと遠くに届くなら……!」


ユウくんは、

ちょっとだけ鼻をこすりながら、ぼそっと言った。


「カッコつけんなよ、寂しいに決まってんだろ……

 でも、オレも、応援してる」


ハルノさんは、

カウンター越しに、いつもと変わらない落ち着いた声で言った。


「風は、留まらない。

 次の空へ吹き抜ける者だけが、新しい景色を見られる」


私は、

胸がじんわりとあたたかくなるのを感じた。


──喫茶春風で過ごした日々。


──リスナーさんと紡いだ春風の夜。


──ここで育った小さな春風を、

 今度はもっと遠くへ、届けに行く。


私は、ノートの最後のページに、そっと書き込んだ。


──「ここで育った春風を胸に、新しい空へ。」


ハーブティーの湯気が、

やわらかな春の光に溶けていった。


私は、カップを両手で包みながら、

はっきりと言った。


「行ってきます。

 そして、必ずまた、春風を咲かせるね」


あかりちゃんも、花音ちゃんも、ユウくんも、ハルノさんも──

みんな笑顔で、

だけど少しだけ泣きそうな顔で、うなずいてくれた。


そして私は、

新しい春風を咲かせるために、

静かに、でも力強く、歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る