第78話:バーチャル喫茶・春風で、春風を運ぶラジオ。
夜。
私は、パソコンの前で、
りるラジオの配信準備をしていた。
──オープニングも、エンディングも、
──小さなコーナーも。
少しずつ形になってきた「りるラジオ」。
リスナーさんたちの反応も、
少しずつ、でも確かに変わってきた。
【この時間、ほんとうにほっとします】
【りるむちゃんの声、夜にぴったりすぎる】
【りるラジオ、毎週のたのしみです】
そんな、
あたたかい言葉たちが、
夜のタイムラインに、静かに咲きはじめていた。
視聴者数も、少しずつ増えていた。
70人、75人──
気づけば、80人を超える夜も出てきた。
私は、
胸の奥が、ふわりとあたたかくなるのを感じた。
──あのころ。
──ひとりぼっちだった夜。
──ただ、誰かに声を届けたくて始めた配信。
そこから、
ここまで、来ることができたんだ。
配信が終わったあと、
喫茶春風のカウンター席で、私はノートを開いた。
──もっと、いい声を届けたい。
──もっと、心に寄り添いたい。
そんな想いを書きとめながら、
ふと、胸の奥に小さな気配がよぎった。
──いつか、この場所も。
──この物語も。
終わりに近づくときが、来るのかもしれない。
もちろん、今すぐじゃない。
でも、
少しずつ、少しずつ、
次の春風に向かって歩きだす準備を、
心のどこかで始めなきゃいけない気がした。
あかりちゃんが、
あたたかいカフェオレを運んできてくれた。
「りるむちゃん、今日のりるラジオ、すっごくよかったですっ!」
私は、にっこり笑ってカップを受け取った。
「ありがとう。……ほんとに、ありがとう」
花音ちゃんも、
ぱたぱたと手帳を持ってやってきた。
「リスナーさんたち、みんな幸せそうな顔してましたっ!」
ユウくんは、
カウンターに肘をつきながら、からかうように笑った。
「これが終わったら、どうするんだ?」
私は、
カップを両手で包みながら、静かに答えた。
「……まだわからないけど。
でも、きっと大丈夫。
春風は、きっと次の場所へも吹いていくから」
ハルノさんは、
カウンター越しに静かにうなずいた。
「終わりは、次の始まりだ」
私は、胸いっぱいにうなずいた。
まだ、ここにいたい。
まだ、届けたい春風がたくさんある。
でも、
心のどこかでは、ちゃんと知っている。
この物語も、
いつか、ちゃんと美しく閉じる日が来る。
だからこそ──
私は、今を、
ひとつひとつ、大事に咲かせていこう。
私は、
ノートの端っこに、そっと書いた。
──「春風は、どこまでも」
ハーブティーの湯気が、
夜空へふわりと溶けていった。
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