第69話:バーチャル喫茶・春風で、ひとりひとりの春風を。

昼下がりの喫茶春風。

私は、カウンター席でハーブティーを飲みながら、ノートに向かっていた。


昨夜の夜配信。

リスナーさんたちから、小さな「今日あったうれしかったこと」がたくさん届いた。


そして、

そのなかに、ふと混ざっていたコメント。


──「実は少し悩んでて、でも、ここに来たら少し楽になりました」


その言葉が、

ずっと胸に残っていた。


──悩み。


私は、そっと考えた。


もしかしたら、

春風を届けるって、

ただ楽しい話をすることだけじゃないのかもしれない。


静かな夜に、

誰かの小さな悩みにそっと寄り添うこと。

それも、私にできる春風のかたちなのかもしれない。


あかりちゃんが、カウンター越しに笑いかける。


「りるむちゃん、また何か思いついた顔してますっ」


私は、笑い返した。


「うん……

 今度、リスナーさんのお悩み相談配信、やってみようかなって思ってるの」


花音ちゃんが、ぱっと目を輝かせた。


「すっごく素敵ですっ!

 りるむちゃんの声、絶対、夜に悩んでる人に届きますっ」


ユウくんは、カフェオレを飲みながら、

ちょっとだけ真剣な顔で言った。


「でもさ、相談って、けっこう重いのもあるぞ?

 ぜんぶ抱え込みすぎんなよ」


私は、

その言葉を、胸にしっかり刻んだ。


──うん、大丈夫。

──私は、"答え"を出すんじゃなくて、"そばにいる"だけでいい。


ハルノさんは、静かに言った。


「春風は、問題を解決しない。

 ただ、そっと心を撫でる」


その言葉に、

胸の奥が、あたたかく震えた。


私は、ノートにペンを走らせた。


・リスナーさんから小さなお悩みを募集する

・全部じゃなく、できるだけ心を込めて答える

・正解を出そうとしない。ただ、一緒に考える

・あたたかい夜をつくる


──決めた。


次の夜、

私は、喫茶春風で過ごしたこのあたたかな空気を胸に、

そっとマイクの前に座ろう。


「あなたのお悩み、そっと聴かせてください」


春風みたいにやさしく、

夜の心に寄り添うために。


私は、小さく微笑んだ。


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