第56話:バーチャル喫茶・春風で、小さな一歩を探して。
翌朝。
私は、いつもより少しだけ早く喫茶春風に来た。
店内はまだ静かで、
朝の光が、ゆっくりテーブルを照らしていた。
昨日、みんなに夢を話してから、
ずっと胸の奥がぽかぽかしている。
だけど同時に、少しだけ、怖くもあった。
──ラジオパーソナリティ。
──そんなに簡単になれるものじゃない。
わかってる。
きっと、今の私じゃ、まだ届かない場所だ。
でも、だからこそ──
今日できる小さな一歩を、探したいと思った。
私は、カウンターに座り、ノートを広げた。
「今の自分にできること」
ページの一番上に、そう書いて、
しばらくペンを止める。
やりたいことは、たくさんある。
でも、できることは、何だろう。
考えながら、
一つひとつ、書き出していった。
・もっと話す練習をする
・リスナーさんとのトークを大事にする
・自分の声を、自分でももっと好きになる
・伝える力を育てる
喫茶春風で、日々リスナーさんと向き合ってきた。
その積み重ねが、きっと未来につながるはずだ。
だから、まずは──
もっと、自分の声を、届けること。
私は、深呼吸してペンを走らせた。
・新しい配信企画を考える
・夜にひとりで聴きたくなるような、トークだけの配信をしてみる
いつもは賑やかさやゲームや企画があったけれど、
今度は、もっと静かに、
夜のラジオみたいな時間を、画面越しに作ってみたい。
まだ誰にも言ってないけれど、
心のどこかで、ずっと思ってた。
「夜の静かな配信、やってみたいな」
カランコロン。
そのとき、
店のドアがやさしく鳴った。
あかりちゃんが、
朝の光に包まれながら、にこにこと入ってきた。
「おはようございますっ」
その後ろから、
花音ちゃん、ユウくん、ハルノさんも続いて入ってくる。
いつもの、春風喫茶の仲間たち。
私は、ノートを隠すみたいに閉じて、笑った。
──まだ言わない。
──でも、もうすぐ言おう。
新しい挑戦を、
ここからまた始めるために。
カウンター越しに、
いつものハーブティーを受け取った。
温かい香りが、胸いっぱいに広がる。
喫茶春風。
この場所があるから、私はまた、一歩踏み出せる。
──春風は、ゆっくりでも、
必ず遠くまで届く。
私は、胸の奥で、そっと誓った。
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