第50話:バーチャル喫茶・春風で、次の春風を探して。

「さて……次は、何をしてみようか」


喫茶春風のカウンターに座って、私はぽつりとつぶやいた。


目の前には、

湯気を立てるハーブティー。

となりには、あかりちゃんが小さく首をかしげている。


「りるむちゃん、何か、もう思いついてるんですか?」


「うーん……」


私は湯気を見つめながら考えた。

まだ、はっきりした形にはなっていない。

だけど、心の中に、

ふわふわとした春風の種みたいなものが舞っている気がした。


花音ちゃんが、ぱたぱたとメモ帳を取り出す。


「なんでもメモしましょうっ。

 小さなアイデアでも、種になるかもしれないです」


ユウくんはカウンターにもたれて、からかうように笑った。


「お前、最近メモ魔になってるな」


花音ちゃんは、ちょっとだけふくれて、メモ帳を大事そうに抱えた。


ハルノさんは、コーヒーカップを静かに置いてから言った。


「焦るな。

 今の空気を感じながら、次を探せばいい」


私は、ノートを開き、

ページの真ん中に、ひとつだけ書いた。


──春風を、もっと届けるために。


そう書いたきり、しばらく手が止まった。


「ねえ」


あかりちゃんが、そっと声をかけてくる。


「例えば、リスナーさんと一緒に作る配信、とか……どうですか?」


「一緒に?」


私は目をぱちぱちと瞬かせた。


「はいっ。

 リクエストに答えたり、

 みんなのアイデアを少しずつ取り入れたり……

 もっと、双方向な感じにしていくんです」


花音ちゃんも、小さく手を挙げた。


「わたし、こういう企画考えるの、好きです。

 なんでも相談してくださいっ」


ユウくんは、からかうような笑顔を崩さずに言った。


「やるなら、ちょっとチャレンジングなテーマも混ぜてみろよな。

 安全なとこばっかじゃ、広がんねーぞ」


ハルノさんは、静かにうなずきながら付け加えた。


「ただし、無理はしないことだ。

 春風は、無理に吹かせるものじゃない」


私は、胸いっぱいにうなずいた。


ひとりで考え込んでいたら、

きっと思いつかなかったこと。


こうして、

みんながいてくれるから、

新しい風を感じられる。


──リスナーさんたちと、一緒に作る春風。


それが、次の扉になるかもしれない。


「……うん、やってみたい」


そう言うと、

あかりちゃんがにこっと笑った。


「絶対、素敵な春風になりますっ!」


春風喫茶の店内には、

まだ見ぬ新しい春風の気配が、

ふわりと舞いはじめていた。


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