第41話:バーチャル喫茶・春風で、画面の向こうにも春風を。

配信スタートのボタンを押すと、

いつものように、

小さな通知音が鳴った。


──でも、今日は、いつもとちょっとだけ違う。


画面の向こうには、

昨日、あの喫茶春風で出会ったリスナーさんたちが、

そっと集まってきてくれていた。


「こんりるる〜!🌸」


私は、笑顔で手を振った。


「昨日はっ……

 バーチャル喫茶・春風に来てくれて、

 ほんとうにありがとうございましたっ!」


チャット欄には、

たくさんの「楽しかった!」や「また行きたい!」の声が並んでいる。


【ほんとに夢みたいだった〜!】

【また春風喫茶開いてほしい!】

【次も絶対参加する!】


「うれしいですっ……!」


私は、胸いっぱいに、言葉をかみしめた。


──昨日、喫茶春風で咲いた春風は、

ちゃんと画面の向こうにも、届いている。


「喫茶春風は、

 ふだんは閉じたままの場所だけど……

 みなさんが、心に春風を持っていてくれたら、

 またきっと、ふわりと扉が開きますっ。」


そう言うと、

チャット欄が、

やさしい絵文字や言葉でいっぱいになった。


【待ってるね!】

【また春風に会いたい!】

【りるむちゃんも、あったかい春風だよ】


「ありがとう……っ!」


胸の奥が、じんわりあたたかくなる。


画面越しだけど、

たしかに感じる。


リスナーさんたちの笑顔。

ぬくもり。

やさしさ。


「これからも、

 喫茶春風みたいな、

 あたたかい配信、していきたいですっ!」


私は、強く、思った。


──また、ここで。


──また、画面越しで。


──また、春風を届けられるように。


ハーブティーのカップを両手で包みながら、

私は、そっとつぶやいた。


「今日も、来てくれてありがとうっ。」


バーチャル喫茶・春風は、

今は扉を閉じているけれど。


画面の向こうには、

たしかに、あの春風たちが、そっと揺れていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る