第35話:バーチャル喫茶・春風で、カランコロン、春風たちがやってくる。
カランコロン。
ドアのベルが、やさしく鳴った。
バーチャル喫茶・春風に、
今日もあたたかい光と、甘いハーブティーの香りが広がっている。
だけど今日は──
どこか、いつもより空気がきらきらしていた。
カウンターには、
あかりちゃん、花音ちゃん、ユウくん、ハルノさん。
みんな、エプロン姿で、そわそわと立っていた。
──いよいよ、春風イベント本番。
「……来るかなぁ。」
あかりちゃんが、
カフェオレのカップを両手で抱えながら、そっとつぶやいた。
「だいじょうぶですっ……!」
私は、胸いっぱいの想いでうなずいた。
──そして。
カランコロン。
また、ベルが鳴った。
「あっ!」
花音ちゃんが、
ぱっと顔を上げた。
ドアの向こうから、
小さな影が、そっと入ってきた。
「いらっしゃいませっ!」
私は、胸いっぱいの笑顔で迎えた。
リスナーさんたちが、
ひとり、またひとりと、
春風喫茶にやってくる。
「席、こちらですっ!」
あかりちゃんが、ぱたぱたと案内する。
「ご注文、決まったら教えてくださいねっ。」
花音ちゃんが、メニューをそっと渡す。
「緊張してるみたいだな。大丈夫、みんなあたたかいから。」
ユウくんが、にかっと笑って声をかける。
ハルノさんは、
カウンター越しにやさしくうなずいた。
──そして、次々と。
カランコロン、カランコロン。
ドアのベルが鳴り続ける。
リスナーさんたちが、
笑いながら、少し照れながら、
春風喫茶に集まってくる。
テーブルが少しずつ埋まっていく。
椅子が、ほんのりきしむ音がする。
カップに注がれるハーブティーの香りが、ふわりと広がる。
──この空気。
──このあたたかさ。
私は、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「春風、咲いてますっ……!」
あかりちゃんが、
そっと涙ぐみながら言った。
花音ちゃんも、
手をぎゅっとにぎりながらうなずいた。
ユウくんも、
カフェオレを片手に、にかっと笑った。
ハルノさんも、
静かに、でも確かにうなずいた。
──はじまったんだ。
夢にまで見た、春風のひとときが。
また、ドアのベルが鳴った。
カランコロン。
私は、
胸いっぱいの笑顔で迎えにいった。
「いらっしゃいませっ!」
バーチャル喫茶・春風。
今日もここには、
たくさんの春風たちが、
やさしく、あたたかく咲き始めていた。
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