第19話:バーチャル喫茶・春風で、君の歌が届くとき。

カランコロン。


バーチャル喫茶・春風に、

今日もやさしいベルの音が広がった。


春風みたいな光が、

窓からふわりと差し込んでいる。


あかりちゃんは、

カフェオレのカップを両手で包み込みながら、

ちょっとそわそわしていた。


「……どきどきします。」


「なにかあったんですかっ?」


私は、カウンター越しにそっと尋ねた。


あかりちゃんは、

恥ずかしそうに、でもちゃんと目を輝かせた。


「きょう、はじめて……

 歌ってみた動画を公開したんです。」


「えええっ! すごいですっ!!」


私は、ぱたぱたと手をたたいた。


「公開したあと……

 誰にも気づかれなかったらどうしようって、

 すっごく怖かったんですけど……。」


あかりちゃんは、

おそるおそるスマホを取り出した。


「でも……コメント、もらえたんです。」


私たちは、

自然にあかりちゃんのまわりに集まった。


ユウくんも、

花音ちゃんも、

ハルノさんも。


スマホの画面には、

小さなコメントが表示されていた。


【はじめて聴きました。

 あかりちゃんの声、とてもやさしくて、癒されました。

 これからも応援しています。】


その一行を見た瞬間、

胸の奥がじんわりとあたたかくなった。


「すごいよ、あかりちゃん!」


ユウくんが、

にかっと笑った。


「ちゃんと、届いてるっ!」


花音ちゃんも、

両手でほっぺたをおさえながら、目を輝かせた。


「わ、私も聴きましたっ!

 すっごくやさしい歌声でしたっ!」


ハルノさんも、

静かにうなずいた。


「誰かの心に、ちゃんと春風が吹いたんだな。」


あかりちゃんは、

目をうるませながら、そっとつぶやいた。


「……うれしいです。

 誰かに届いたって思ったら……

 また、がんばろうって思えました。」


私は、

胸いっぱいの気持ちで言った。


「おめでとうございますっ、あかりちゃんっ!!」


春風喫茶店の中に、

ふわりとあたたかい風が流れた。


ジュワジュワと、

心のなかにやさしい音が満ちていく。


──小さな一歩だったかもしれない。


──でも、それは、

まちがいなく誰かの心を動かした。


バーチャルのこの世界で、

確かに、春風が吹いたんだ。


「これからも、届けていきたいですっ。

 ちいさな春風を、たくさん……!」


あかりちゃんの声は、

まっすぐだった。


私は、エプロンのすそをぎゅっとにぎった。


──また、あしたも。


誰かの今日に、

そっと春風を届けられますように。


店内には、

ハーブティーのやさしい香りと、

小さな春風が、ふわりと舞っていた。


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