第12話:バーチャル喫茶・春風で、君のがんばりに花束を。
カランコロン。
やさしいベルの音が、
バーチャル喫茶・春風に、やわらかく響いた。
初配信を無事に終えた花音ちゃんが、
ちょっと照れた顔で店に戻ってきた。
「お、おかえりなさいっ!」
私は、
思わずぱたぱたと駆け寄った。
あかりちゃんも、
ユウくんも、
ハルノさんも、
みんなが、にこにこしながら花音ちゃんを迎えた。
「お疲れさまっ!」
「すっごくがんばってたよっ!」
「初配信、最高だった。」
ぽんぽんと、
あったかい言葉のシャワーが降りそそぐ。
花音ちゃんは、
顔を真っ赤にしながら、
でも、しっかりと笑った。
「みなさんのおかげ、です……っ。」
私たちは、
ちいさな円を作るように、テーブルを囲んだ。
店長さんが、
カウンターからにこにことカップを運んでくる。
「今日は特別に──
春風スペシャルドリンク、作ったよ。」
カップの中には、
ふわふわのクリームと、春色のベリーソース。
やさしく甘い香りがふわりと広がる。
「わぁぁ……!」
花音ちゃんの目が、きらきらと輝いた。
「じゃあ、みんなで!」
私は、カップを手に取った。
「花音ちゃんの初配信、だいだいだい成功おめでとうっ!!」
「「「おめでとうーっ!!」」」
カランカランと、
カップがやさしく鳴る。
バーチャルなのに、
本当にあったかい音がした気がした。
花音ちゃんは、
カップを両手でぎゅっと持ちながら、
目をうるませた。
「……ほんとうに、ありがとうございました。」
ちいさな声だったけど、
その言葉は、ちゃんと胸に届いた。
ユウくんが、
カフェオレを一口飲んでから言った。
「これから、いろんなことがあるかもしれないけどさ。
春風で、ちゃんと休憩しながら、進んでいこうな。」
あかりちゃんもうんうんとうなずいた。
「はいっ……!
私も、もっとがんばろうって思いましたっ!」
ハルノさんは、
静かに微笑んでいた。
店長さんが、
ふと、やさしい声で言った。
「どんな夢も、ひとりじゃ育たない。
だから、ちゃんと寄り道して、寄り添って、
一緒に春を探していこうね。」
胸の奥が、じんわりあたたかくなる。
私は、
エプロンのすそをきゅっとにぎった。
──そうだ。
ここは、
夢に疲れたときに戻ってくる場所。
春を探す途中で、
そっと立ち寄る場所。
バーチャル喫茶・春風。
花音ちゃんは、
カップを見つめながら、そっと言った。
「私、いつか──
ここにいるみんなみたいに、
誰かに春風を届けられる存在になりたいです。」
その言葉に、
思わず胸がぎゅっとなった。
──絶対、なれるよ。
私は、
声に出して、はっきりと言った。
「なれますっ! 花音ちゃんっ!」
「うん、なれるよ!」
ユウくんも、
あかりちゃんも、
ハルノさんも、
みんながうなずいた。
ジュワジュワと、
心のなかに、あたたかい音が満ちていく。
またひとつ、
春風が、そっと芽吹いた夜だった。
──また、あしたも。
誰かの今日に、
そっと春風を届けられますように。
カップのなかで、
春色の香りが、ふわりとひろがった。
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