第6話:バーチャル喫茶・春風で、あの日、君に出会えたこと。

カランコロン。


午後のバーチャル喫茶・春風に、

今日もやさしいベルの音が響いた。


でも、今日の店内は、いつもより少し静かだった。


私は、カウンターでカフェラテを作りながら、ふと顔をあげた。


ユウくんが、

お気に入りの席に座ったまま、ぼんやり外を眺めていた。


カフェオレに手を伸ばしながらも、

どこか、遠くを見ているような目。


──どうしたんだろう。


気になって、

私はそっとカウンターから出た。


「ユウくんっ、今日のカフェオレ、少しだけ甘くしてみたんですっ!」


トレーに乗せたカフェオレを、そっと差し出す。


ユウくんは、

ぱちっと瞬きをしてから、笑った。


「ありがとう。……りるむちゃんって、ほんとやさしいな。」


私は、

えへへっと頬をかいた。


──でも、やっぱり、

いつもの元気なユウくんとは、どこか違う。


カウンターに戻ろうとしたとき、

ユウくんが、ぽつりと声を落とした。


「ねえ、りるむちゃん。」


私は、振り返った。


「俺、昔、VTuberが大好きだったんだ。」


静かな声だった。


「学校もうまくいかなくて、家でも居場所がなくて……。

 でも、推してたVTuberの配信だけが、

 毎日の、たったひとつの楽しみだった。」


私は、

そっと胸に手を当てた。


──ユウくんにも、そんな日々があったんだ。


「でも、その子、ある日突然、いなくなっちゃって。」


ユウくんは、

カップのふちを指でなぞった。


「卒業、って言葉だったけど……

 ほんとは、もっとたくさん、話したかった。

 もっと、応援したかった。」


カフェオレの湯気が、

かすかにゆれる。


「だからさ。」


ユウくんは、顔をあげた。


「俺、ここに来るようになったんだ。」


「喫茶・春風でなら──

 また、誰かの夢を、そっと見守れる気がして。」


その言葉に、

胸の奥が、ぎゅっとなった。


私は、

カウンター越しに、小さな声で答えた。


「……ユウくん、すごいですっ。」


「え?」


「だって……大好きだった想いを、ちゃんと持ち続けてるから。」


ユウくんは、

ぱちぱちと瞬きをして、それから小さく笑った。


「そう、なのかな。」


「はいっ。すっごく、素敵なことだと思いますっ。」


私は、

エプロンのすそをぎゅっとにぎった。


「私も、ユウくんみたいに……

 誰かの、ちいさな春風になれるVTuberになりたいですっ!」


ユウくんは、

ふわりと笑った。


「りるむちゃんは、もう、なってるよ。」


その言葉が、

胸の奥に、じんわりと広がった。


──あったかい。


バーチャル空間なのに、

ここにはたしかな心があって、

やさしい春風が吹いている。


カフェオレの香りが、

ふわりと店内に広がる。


私は、

心の中でそっとつぶやいた。


──また、あしたも。


誰かの今日に、

そっと春風を届けられますように。


ジュワジュワと、

あたたかい音が胸いっぱいにひろがっていった。


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