狗犬居ぬ

アナンダ

狗犬居ぬ

少しばかり昔のお話だ。私は犬を飼っていた。カワイイわんちゃん。名前はチョコという。毛並みは白いのにね。けれども去年、何処かへ行ってしまった。扉を開けていた拍子に逃げちゃった。悲しいね。最後まで、面倒を見ていたかったのだけれど....。まぁそんな昔話はいいんだ。今に戻ろう。


そして今、目の前に、チョコが居る。愛らしい。毛並みとかは大きく違うけれど...チョコだ。あぁ、年甲斐もなく泣いてしまう。あぁ、あぁ、チョコ....会いたかったよ...


早速家に連れ帰った。一年も外に居たんだ。土汚れが凄いに違いない。冷水を沸かしてぬるま湯にする。それをチョコにかけて、丁寧に汚れを洗っていく。時間を取り戻すように、今までの悲しみを流していくように。


綺麗にしたあとエサをあげた。とても、とても多く、今まで大変だったろうから。いままで辛かったろうから。逃げてしまった自業自得だろうけども、愛しているから大事にね。

「もう逃げちゃダメだよー?」


返事はない。エサにかぶりついてるみたい。



本当に、身勝手だ。本当に、本当に、私の苦労も知らないで。あぁ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ。こんなのチョコじゃないこんなの私の愛犬じゃない。こんなのは違う。こんな愚図じゃないこんな強欲じゃない、こんな毛の色が黒くない。ダメだダメだダメだダメだダメだ。


気付けば私は、ハンマーで潰していた。馬鹿な狗を。家に居た、野良犬を。チョコとは違う、侵入者を。


「やっぱりだめだな。チョコ、何処に居るんだい?早く帰っておいで。」


少しばかり昔のお話だ。私は犬を飼っていた。カワイイカワイイチョコ。私はチョコに愛情を与えた。少しばかり苛烈な、愛を。だけれど愛していた、約束しよう。だけど....チョコは逃げてしまった。私は悲しい。私は悔しい。何が足り無かったのだろう。吠えないように躾たり、指示に従わないから嬲ったりしただけなのに。チョコが悪いんだよ?チョコがダメなんだよ?私に従わないから。


ぴんぽーん


間の抜けた音が響く、郵便でも頼んだだろうか。そう思って出た。

「はーい」


「警察です。署までご同行をお願いします。」|

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