リンゴに毒を混ぜこめば

@sakahashi

第1話 気づき

思えば、リンゴには最初から毒があったのかもしれない。

それがただ、味として今毒を感じてしまっただけかもしれない。

毒は、体内をめぐって、吐き出そうとすればするほど効き目を増し、絶望と程よい自由を与えた。


今思えば小さい頃から、愛に飢えていたと言われるとそんな気がしてくる。

ほんの小さな、生まれてまだ4年か5年ほどしか経っていなかったあの日も、幼稚園の先生に夢を問われ、幼稚園の先生になりたいと答えた。

きっと、幼稚園で働いているということは、その職業に自信があり、好きで働いているのだから、世界をまだ知らぬ幼児が同じ夢を持つことは喜びに感じると疑わなかったからだ。

またある日、先生に休日は何をしているのかと聞かれた。私は架空の友達を作った。実際にしていたことに、架空の友達を参加させた話をして聞かせた。先生はきっと気づいていただろう。私がその子を話に出す度に、それはあなたじゃなくて?と執拗に聞いてきたのだ。私はその子を実在させなければ居場所が無くなるような気がして頑なに否定した。その子は実際にいるし、ずっとそばに居ると半分自分さえも信じてしまうほどに、その存在に価値を置いていた。

今思えば気持ち悪い子供であった、妙に頭が働き、その場の大人に媚びを売る発言しかしなかった。家族にさえ媚びを売って、父親の飲んでいたビールの泡を飲ませてもらった時は酔っ払ったふりをしてふにゃふにゃと踊って見せた。

まるでピエロにでもなったかのように、存在をみせしめるかのように、私は私を嘘で光らせた。

あの時も、きっと愛が欲しかったのであろう。

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