ロゥディアース

費旺 徳

第1話 JKと男児

 クランベリージャムと名の宇宙建設の人工都市部。

 ロードバイクを走らせるスポーティー女子、べニレ・ダレムナー。17歳。

 バリバリの高校二年生。

 キャバリアキャップを頭に取り付けて人が組み立てた街を風を切り疾走はしった。

 向う先はフォームバレー。そこにあるシュドレイダー演習機甲で、操縦トレーニングを続けるのだった。

 シュドレイダー。それはこの宇宙で命を守るには必要な挙動するとりでであり、攻撃力を備えた神そのものだ。

 演習機甲を除く正規機甲なんて、云千万体も生産されているほどのマシンである。

 

 べニレの愛機である演習機甲はサーフィスというコードネームが付けられてあった。このマシンは他の演習機甲よりも性能がよく、運動性も抜群。べニレのメンタルヘルスも良好で、マシンとの統合シンクロ率は90%。

 シュドレイダーバトルの勝率は85%。

 フォームバレーNo.1をキープする優秀ライダーだ。今日もまたサーフィスが第1位をゲットして、他ライダーはキリキリしていたという。


「ちょっと、あなた。そうよ、あなたのことよ」

「え……」

「涼しい顔してさ。いくらサーフィスが優秀メカだからと調子乗らないでくれる?」

「性能に妬いてるの? とんだ誤算ね。乗り手とマシンの絶妙なシンクロ率でテクニックがバランスもって動いてるのよ。それだけの事だね」

「くっうう〜。話にならないわ。あなたの顔なんて見たくもない。そんな調子だと近いうちに演習バトルで負けるから、覚悟なさい!!」


 カチーヤは、その負けん気でヅケヅケと吐き出した。


「あの子ねカチーヤといって、名門アージェンデアカデミーの在学生よ」


 と、演習戦友のリーリアがひそかに話しかけた。


 アージェンデアカデミー。クランベリージャム1の名家学生たちの進学校。

 カチーヤは、負けず嫌いで、なんでも勝ちにこだわるお調子者である。


「有名学生だって第1位は当たり前だと我を張って、こんな汗水垂れる場所で腕を磨いているんだって」

「あたしは全然悪くない。マイペースにトレーニングしてるからね。とやかく言われる筋合いないから」


 その頃、かの名家、レグイメーの邸宅では……。

 クランベリージャム軍隊は『ミージグェスト』により制圧、つまりレグイメー邸が占拠されてしまった。


 カチーヤの連絡通信端末に緊急着信メロディがうるさく鳴りだした。


「未登録通信? 誰よ、わたしのコロフォ(コロニーフォンの略式)に掛けてくるのって。……もしもし、誰? あなた」

「お前さんがカチーヤという娘か? ぼくはね、今よりレグイメー邸を乗っ取ったミージグェストの統領、マーズナ・トロカ・デノアン。お見知りおきを」

「軍隊が制圧? なんでよりによってわたしのウチなのよ!!」

「君を正式に、正規ライダーとして、軍用シュドレイダーの座席についてもらう。依存はないね」

「わたしが正規ライダー……。それで軍用シュドレイダーにも乗れる? こんな演習のようなごっこ遊びのトレーニングだけの腕比べで軟弱なわたしが選ばれるの?」

「どうかね? 悪い話ではないよ。まぁ、ご両親や親族の命を囮にしてるけど、ね。それを解除するには、君がシュドレイダーを使えば考えてやってもかまわない」

「父様たちを拘束してるなんて……分かったわ。軍用シュドレイダーを操ってやるわ」

「契約成立だ。これで君は……カチーヤ君は正規ライダーに登録した。よろしく頼むよ。期待する」


 ルピナス。

 宇宙安定向上機関。そこは、クランベリージャム軍の中の私軍、ミージグェストを更正させると活動を強化している組織体。

 このルピナスで、最年少特使として任をついた児童が、クランベリージャム市内に潜っては、ルピナス製の新型シュドレイダーのライダー資質の人材探しに精を尽くしていた。


「あっ、あれがこの街の人気スイーツ、クランベリージャム・プレシャスクーヘン。ボクには、あれが精気を付かせるシロモノにしか見えない」


「ねえ、お母さん、あの人変」

「しっ、見てはいけません」


 人材探しの活動をそっちのけに、洋菓子に目をくらむ児童には、荷の重い任務なのかも知れなかった。

 そんな児童に声掛けしたのは、ロードバイクで帰宅途中のべニレだった。


「坊や、プレシャスクーヘン食べたいの?」

「んなワケ!! 誤解するなって。ボクはそんなことで見とれるワケな……」


 ギュルル……と大きく腹部から鳴り出すぐうの音。


「そんなワケ……」

「おねえさんが、ちょっとだけ付き合ってあけよっか?」

「ボクは仕事があるんだ。悪いが……」


 ギュルルルルー。さっきよりも、かなり大きく鳴りだした。


「フフフ!!」

「だから、そ……その……」


 クランベリージャム・カフェスペースに二人は入店した。空席につくと、児童は羞恥心の余り、紅顔になり顔をそむけた。


「なあに、赤らめてるの? あたしが気になるとか?」

「ちがう!! アンタなんか気になるもんか! 勘違いするなよな」


 注文したプレシャスクーヘンがテーブルに置かれて、サンプル品とはまたちがう色鮮やかさに見とれた児童だった。


「美味そうだ〜」

「遠慮いらないわ。育ち盛りなんだからちゃんと召し上がりなさい」

「こ、こんなの……仕事に支障きたすしな〜」

「もったいないな。おねえさんが食べちゃおうかな?」

「う〜ん……分かった分かったよ。食べてやるよ。チッ、こっち見るなよな。い、い……いただきます」


 ニコリと微笑みながら児童を見やるべニレ。両腕で頬杖つきながら和んでいた。


「ごちそうさま。実に美味かった。こんなコロニーでもスイーツが想像以上に美味いとはな。さすがに星の3がつくカフェだな」

「ユニバース・グルメマガジンに掲載されるベスト入りの店なのよ、ここ。なぁんだ。坊やはここが目当てできた観光客かな?」

「仕事だよ。観光できたんじゃない!!」

「差し支えなければ、おねえさんにお仕事のこと教えて」

「まぁ……奢ってくれたし、仕方ない。ボクは、ホルツ・ウィーマー。宇宙安定向上機関所属の最年少スタッフをしてる」

「その歳で組織のお仕事してるの、エラいなー」

「歳なんて関係ないよ」

「まだ9、10歳くらいなのにスゴいと思うわ。あたしがその頃は、まだ親のスネをかじっていたけどね」

「親なんていないよ。ボクは孤児だったんだ。組織が救出して、それで育てられた」

「あら、ごめんなさいね。悪気はなかったのよ。ホントごめんね」

「いいって。事実なんだし。ボクは組織に拾われてから組織の仕事の特使をしてきた。簡単な仕事だからさ、人を探して連れて行くだけだしね」

「人探しって探偵の?」

「特使は、能力の高い人材を見抜いて、その能力者をミスなく探し、組織に随行させねばならない。言葉で伝えるよりも簡単じゃないけど、楽しく仕事してるんだ」

「そうなんだ。あ、あたしはべニレ・ダレムナー。17歳よ」

「ボクは10歳だよ。おねえさん……いや、ベナ姉、よろしく……な」

「あらあら、ベナって愛称、知ってるなんて、やっぱ、あなたって天才なの?」

「うるさいなぁ。あ、じゃあコレ、ごちそうさま。あ、あ……ありがと……な。仕事してくるから……」

「あの子、能力者って言ってたっけ。もしかして、シュドレイダーのライダーを探してるのかな?」


 べニレは悟った。

 少年がシュドレイダーのライダーのリクルートしてる特使だと、何となく薄々気付いてるような気がしていた。

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