隣の席が毎回違う

だち

第1話 空から来た転校生、着地地点が教卓

•山田ユウキ(主人公・天然)

•田中ミホ(毒舌ツッコミ)

•佐藤レンジ(ナルシスト)

•黒川カグヤ(転校生・空から来る)

•担任・森先生(モブ寄り、でもちょい活躍)



「新学期ってさ、何が起こるか分かんないから怖いよな」


山田ユウキは、誰に言うでもなくそうつぶやいた。春の朝。桜が舞い散る校門をくぐり、彼は高校生活の第一歩を踏み出す。


「山田ァ!お前、リュックのチャック全開!」


背後から鋭い声。田中ミホだ。中学からの腐れ縁で、だいたい彼のミスに最速で気づく。


「マジか。……あ、教科書全部落ちてる!」


「もはや開き直れよ」


ユウキは拾った教科書を脇に抱えながら、どこか誇らしげだった。落とした教科書が風に舞っているのを見て「これが俺の始まりだな」とか思っている。違う、ただの凡ミスだ。



教室に入ると、クラスの空気はすでにどことなく騒がしかった。机の配置はすでに決まっており、黒板には「1年A組」と書かれている。自己紹介が始まりそうな雰囲気。


「よぉ山田。俺の隣空いてんぞ。俺のフェロモンが強すぎて誰も寄ってこねぇんだ」


イケメン(自称)の佐藤レンジが手を振る。女子たちは絶妙な距離を保っている。


「俺の席、そこなんだけど」


「……え?」


ユウキは黙って教科書を机に叩きつけた。ミホがすぐ隣でため息をついた。


「このクラス、地味にめんどくさい奴しかいねぇな……」


「おまえもそのうちの一人だぞ」



チャイムが鳴り、担任の森先生が入ってきた。30代半ばで、やや猫背。声はやたらと小さい。


「えー……皆さん、入学おめでとうございます……では、自己紹介の前にですね……転校生を紹介します」


「転校生って、初日に?」


「なんでこのタイミング……?」


ざわつく教室。森先生が窓の外をチラリと見た。


「えー……来ます……」


「来ます?」


「……上から」


「上!?!?」


その瞬間、教室の天井を突き破らんばかりの音とともに、一人の少女がドーンと教卓に着地した。というか、正確には教卓にヒビが入った。


「転校生の……黒川カグヤさんです」


「紹介がシュールすぎる!」


少女――黒川カグヤは、純白の制服に黒髪ロング。まるで昔話に出てくるかぐや姫のような風貌で、落ちてきた衝撃を全く感じさせない表情で言った。


「……ふう。着地成功。教卓の損傷度、許容範囲内」


「お前どこから来たの!?宇宙!?月!?」



ユウキは思わず叫んだ。だが、誰も彼女を咎めない。森先生が淡々と続けた。


「本校には、校則第108条『空から来た者は歓迎すること』がありますので」


「どんな校則だよ!?!」


黒板に書かれたその条文は、しっかりと存在していた。小さく「制定:昭和47年(隕石落下事故対応)」とも書かれている。


「私の席は……そこか。では、よろしく」


カグヤはユウキの隣にストンと座った。


「また俺の隣かよ!!」



放課後。ユウキは屋上でぼんやりと空を見ていた。


「高校生活、もう終わったかも……」


「始まったばかりだろ、バカ」


後ろからミホの声。隣にはレンジもいる。カグヤはなぜか、屋上の手すりの上に正座していた。バランス感覚がおかしい。


「この学校、なんか変だな」


「うん、でもまあ……楽しくなりそう」


ユウキは笑った。空はやけに青かった。明日も何かが起きる予感がしていた。

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