第5話しろぴあのメジャーデビュー

「お金では買えないもの」「今を生きる」は、ライブハウスを中心に口コミで 徐々に広がり始めた。それまで、どこかキャッチーさに欠けると言われていた「しろぴあ」の楽曲に、ponziの哲学的な歌詞が深みとメッセージ性を与え、聴く者の心に深く共鳴するようになったからだろう。

ライブの動員は徐々に増え、物販のCDの売れ行きも目に見えて伸びていった。これまで応援してくれていた古参のファンたちは、自分たちの応援してきたバンドが新しい光を浴び始めたことを喜び、新しいファンたちは、その歌詞の持つ力強さに惹きつけられていった。

きーちゃんは、ponziに感謝の気持ちを伝えた。「ponziさん、本当にありがとうございます。あの歌詞のおかげで、私たちの音楽が変わりました。」

ponziからの返信は、いつものように淡々としたものだった。「言葉は道具に過ぎません。それをどう使うかは、あなた次第です。」

しかし、その言葉の奥には、ほんの少しの温かさが感じられた気がした。

そんな中、インディーズ音楽専門のウェブサイトで、「しろぴあ」の新しい楽曲が紹介されるようになった。特に「お金では買えないもの」は、「心に突き刺さる歌詞」「現代社会への問いかけ」といったキーワードと共に、音楽好きの間で話題を呼んだ。

そして、ついに小さなインディーズレーベルから、アルバムリリースの声がかかった。「しろぴあ」にとって、それは大きな飛躍だった。初めて全国流通に乗るCD。きーちゃんをはじめ、メンバーたちの喜びはひとしおだった。

アルバムに収録された楽曲のほとんどは、ponziが提供した歌詞を元に制作された。「何気ない日常に潜む真理」「人間の孤独と繋がり」「過ぎゆく時間の中で見つける希望」といったテーマを、ponziは時に詩的に、時に鋭利な言葉で表現し、きーちゃんのメロディーと歌声が見事に融合した。

アルバムは予想を上回るセールスを記録し、インディーズチャートの上位にランクインするようになった。ラジオのインディーズ番組でも取り上げられる機会が増え、少しずつではあるが、「しろぴあ」の名前は音楽業界の内外に知れ渡るようになっていった。

そして、ついにその時が来た。大手レコード会社からのメジャーデビューの誘いだ。幾度かの話し合いを経て、「しろぴあ」はついにメジャーレーベルと契約を結ぶことになった。

記者会見の日、きーちゃんは緊張しながらも、喜びを隠しきれない表情でマイクに向かった。「私たちの音楽が、もっとたくさんの人に届けられるようになると思うと、本当に嬉しいです。これまで支えてくれたファンの方々、そして…ponziさん、本当にありがとうございます。」

ponziは、その記者会見をニュースで見ていた。相変わらず薄汚れたアパートの一室で、安物の缶コーヒーを片手に。画面の中できらびやかに輝くきーちゃんの姿は、どこか遠い世界の人のように感じられた。

メジャーデビュー後、「しろぴあ」の勢いは加速した。ponziが書き下ろす歌詞は、その哲学的な深さと普遍的なテーマで、幅広い層のリスナーの心を掴んだ。テレビの音楽番組への出演、大型フェスへの参加、音楽雑誌の表紙を飾るなど、彼女たちの活動は目覚ましく、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

きーちゃんは、いつしか誰もが知る人気ガールズバンドのボーカルとなっていた。街を歩けば声をかけられ、サインを求められる。かつて下北沢の小さなライブハウスで歌っていた頃とは、まるで別世界だった。

しかし、そのサクセスの裏で、きーちゃんとponziの間には、少しずつ距離が生まれていた。多忙なスケジュールの中、きーちゃんがponziに連絡を取る回数は減り、ponziからの返信も以前ほど頻繁ではなくなっていた。

きーちゃんは、ponziの才能に感謝しつつも、どこか複雑な感情を抱き始めていた。自分の歌声で多くの人を魅了しているのは紛れもない事実だが、その根幹にあるのはponziの言葉なのだという意識が、彼女の中で小さな影を落としていた。

そんな時、きーちゃんは人気絶頂のイケメン俳優、カイトとドラマでの共演をきっかけに出会った。爽やかなルックスと飾らない人柄で、女性ファンを中心に絶大な人気を誇るカイト。多忙な日々の中で、彼と過ごす時間は、きーちゃんにとって束の間の安らぎとなっていった。

二人の距離が縮まるのに、時間はかからなかった。共演者として顔を合わせるうちに、互いの魅力に惹かれ合い、いつしか恋人同士になっていた。

しかし、人気者の恋愛は、常に世間の注目を集める。そして、それは時に残酷な結末を迎えることもあるのだ。

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