転生先で溺愛する弟は禁忌の無属性~家族で殺処分に抵抗したら魔界送りになったけど、快適だったのでスローライフします~
ゆる弥
第1話 魔界へ追放
煌びやかなステンドグラスからの光が差し込む間。幻想的な色とりどりの光の中で、最愛の弟が今属性鑑定の儀式を受けている。
俺は十年前に日本から転生して炎属性という火属性の上位互換の属性を授かった。魔力も多く、クレナイ家の次期党首として順調に教育を受けていた。
弟は五歳になる今、属性鑑定の儀式を受けているところだった。弟にどんな属性が鑑定されようと、愛すると決めているのだ。そのくらい家族で溺愛している可愛い子なのだ。
「だ、旦那様。この子は無属性です。殺処分です……」
この
もちろん、俺は抵抗する。
「お父様?」
視線を父へと送り、抵抗する意思を目に宿して見つめた。それを察してくれたように頷く父。父が頷いたのなら大丈夫だろう。
何を隠そう、弟を一番溺愛しているのが父だからだ。俺も溺愛されてきた。だが、弟は持ち前の可愛さを発揮して皆の愛を一身に受けていた。
「鑑定士様、どうかこのことをご内密にはできませんか?」
「国王へと報告する義務となっておりますので……」
鑑定士は、あくまでも隠せないと。まぁ、それならそれでクレナイ家は
そう思っていたのだが、そう甘くはないらしい。
「報告して、我々が殺処分をするなら抵抗すると伝えてもらえるか?」
「はぁ。伝えてみますが」
その鑑定士は通話用の水晶を取り出して国の機関へと報告を行っている。無属性だというと相手は驚いて、殺処分だと騒いだ。それに抵抗するそうだと鑑定士が伝えた。
すると、激昂して家族もろとも魔界送りだと言っている。
あぁ。このまま家族で魔界行きか。どれほど過酷な場所なのか。地獄を見るのだろうな。そう考えると気持ちが落ちていく。
でも、俺とお父様なら魔族を屠ることだってできるのではないだろうか。そんなことを漠然と考えていた。
「魔界行きか。死を覚悟せねばならんな」
「そんなに酷いところなのですか?」
率直な疑問を父へと投げかける。すると、「うーん」と唸りながら口を開いた。
「実は、魔界がどういうところなのか、というのはこの世界の誰も知らないんだ」
「えっ? そうなのですか?」
なんで魔界がどういうところかわからないのにあたかも地獄であるように追放しているのだろうか。知りもしないのに、意味が分からない。
「魔族というのは粗暴な種族らしいんだ。魔界、それは戦乱の世らしくてな。魔界へ一歩踏み出したら即死亡すると言われているのだ。生きて帰って来たものがいないらしい」
そんなに恐ろしいところなのか。戦乱の世ならば、俺が弟を、家族を守る。炎属性は上級魔法まで使えるようになっているから、残すは特級の魔法のみ。
特級の魔法だって、行使できると思われるところまで魔法理解は進んでいる。それに、魔力も特級魔法を使うには十分な量を体内に貯蔵できている。
後は、魔法構造を完全に理解できれば発動できるところまで来ているのだ。もう少し時間があれば行使できるはず。
「では、荷造りと戦闘準備をしましょうか」
その発言に父は目を見開いて俺の目を凝視した。そして、口角を吊り上げると急に獰猛な戦闘モードの顔へと変貌した。
「あぁ。エンキ。父と共に戦おうぞ。このサイエンの恐ろしさを、魔族へとわからせてやろう」
完全に戦闘モードの目となった父に、鑑定士もビクビクしながら逃げようとしている。そのうち、国の機関のやつらが来ることだろう。
こちらは大人しく待つことなんてしない。
「ぼく、むぞくせいだったの?」
泣きそうな目をしながらこちらを見つめる弟のリッカ。震えている弟を抱きしめて背中をさすって慰める。
「大丈夫だ。心配ないぞ。お父様とお母様、無論俺もだ。三人で必ずリッカを守るからな」
「そうよ。心配することはないわ。この人とエンキがいれば魔族なんてイチ殺よ」
なんだか、殺気だっている母。もしかしたら父より恐いのではないかと思うことがある。あの目は人を射殺すときの目だ。
母も戦えるはずなのだ。クレナイ家当主の妻なのだから、ただのお淑やかな女性では務まらないはずである。武勇がなければなれない。
ただ、クレナイ家がなくなれば
この世界は火、水、風、地、雷、光、闇属性の七属性の貴族が支配している。その席を得るための戦いは壮絶なんだろうだ。過去にクレナイ家はその争奪戦を勝ち抜いて席を手に入れたんだとか。
それを手放すというのだから何事かと思われるかもしれない。しかし、最愛の弟はそんな貴族の席なんかの為に喪うことなどできない。許さない。
家にある自前の装備を着こなし、武器になるようなものもすべて持った。物は必要最低限。そして、戦えることに特化した装備。
動きやすい革鎧に、魔力伝達率の高いヒヒイロカネの刀を二振り。父上は大太刀を一本装備した。母上とリッカにはアダマンタイト鎧を着せて防御を万全にする。万が一攻撃をうけても無事であるように。
「
国の使いが来た。一緒についていくと街を外れていき、森の一角へとやってきた。そのには、ツタの絡まった古い扉が立ちふさがっていた。
国の者が無言で手をかざすと扉が開いて中へと入れるようになる。足を踏み入れると両脇の壁へと炎が灯る。人の魔力を感知して炎が付くようにしている魔道具だろう。
通路の奥へ向かうと魔法陣が描かれた床のある間へと突き飛ばされた。国の使いは床へと手をかざすと、魔法陣は緑の光を放ち、俺達を魔界へと誘っていく。
視界が真っ暗になる。
次に光が見えた時は魔界だろう。
戦闘態勢のまま視界がクリアになるのを待った。
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