ツチノコを飼ってみた

伊吹 藍(いぶき あおい)

ツチノコを飼ってみた

 ペットショップを横切ると

「ツチノコ大特価中」との暖簾がかけられていた。

 ツチノコ……実在するのか? と思い、おもむろにペットショップへ入ると、入り口に入ってすぐのショーケースの中にヤツはいた。

「いらっしゃいませー」

「あ、あのすみません。このツチノコって本物なんですか?」

「えぇ! もちろん! よろしければ触ってみますか」

「え、触って平気なんですか」


――買ってしまった。つい店員さんにそそのかされてしまった。

 帰宅をして箱から出してやると、ツチノコはキョロキョロと辺りを見渡している。

「これからはここがお前の家だぞ」

 ツチノコに声をかけると、ツチノコはきょとんとした表情でこちらを見てくる。人語は理解できるのだろうか。できるのならば芸のひとつでも仕込んでやりたい。

 ツチノコは飲食を行うが必須ではなく、また排泄もしないらしい。どのような体の構造をしているのか分からないが、飼いやすくて良い。また、たまに「ピィ」と鳴くが、犬や猫ほど鳴き声が大きいわけでもないのでその点でも飼いやすい。「ツチノコ飼育ブーム」でも起きてもよさそうだが、やはり希少な生物なのだろうか。

 ペットショップの店員曰く、たまに散歩へ連れて行ってやるといいらしいから、早速散歩へ連れて行くことにした。

「おいでじゃじゃまるー」

 じゃじゃまるはツチノコの名前である。

 名前を呼ぶとじゃじゃまるは、ピィと鳴きながらジャンプして飛びついてきた。首輪をつけると若干抵抗して嫌そうではあったが、次第におとなしくなり首輪を着けさせてくれた。

 人生初、ツチノコの散歩である。自宅を出てしばらく歩いたが、周囲の人が不思議そうな顔をしてこちらを見てきているのがわかる。ツチノコの散歩をしているのだから無理も無いか。

 散歩を始めてしばらく経ってからだった。それまでおとなしく散歩をしていたじゃじゃまるが、突然私を引っ張り始めた。

「ど、どうしたんだじゃじゃまる」

 じゃじゃまるはピィ、ピィと鳴きながら私を引っ張る。なにやらどこかへ案内しているようだった。

 私はじゃじゃまるの思いのままついて行くことにした。

 しばらく引っ張られていると、草が生い茂っている空き地に着いた。

「空き地で遊びたかったのか?」

 と私が問いかけると、じゃじゃまるはピィ、ピィとこれまでにないほど鳴き始めた。

 何事かと思っていると草むらからガサゴソ、ガサゴソと音がし、大量のツチノコが草むらから飛び出してきた。

「うわぁ!」

 私は驚き、思わずしりもちをついた。そんな私をじゃじゃまるはジーっと見ている。

「もしかして、お前、ここで捕まったのか?」

 そう言うと、じゃじゃまるはピィと返事をした。

 そうか。家族と離れ離れになっていたのか。

「よし、じゃあ帰してやるか。今首輪を外すからな」

 私が首輪を外してやると、じゃじゃまるはツチノコの群れへダイブする。じゃじゃまるもツチノコの群れもピィピィ鳴いてまるで感動の再会だ。

 ツチノコの群れはじゃじゃまるを連れて去っていく。

「もう捕まるなよー」

 私はそう言って帰ることにした。


 帰り道、電柱に「ツチノコ発見につき一億円」と書かれたポスターが貼られていた。この手のポスターを今まで見たことがないでもなかった。

「どうせなら一億円貰っておくんだったな」

 そんなことを考えながら、私は帰路についた。

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